トロイ戦争その後。オデュッセイアの表ルートと、アエネーイスの裏ルート

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ふたつのストーリー。トロイア戦争後の王道ルートと、裏ルート

物語の元祖ホメロスの『イリアス』。ギリシアとトロイアとの戦争を描いた物語でした。主人公はアキレウス。アキレウスの怒り(という感情)にフォーカスして描いたからこそ、『イリアス』はただの戦争記録ではなく文学だと言えるのです。

小説のはじまりは「怒り」。詩聖ホメロス『イリアス』は軍功帳。神話。文学

紀元前〇世紀に描かれた『トロイ戦争』は、ながらく伝説(架空の物語)だと思われていましたが、現実のことだと証明されたのはシュリーマンの発掘があったからです。

【世界がっかり名所】トロイ遺跡は「遺構」。ヘクトルが逃げ、アキレウスが追いかけた城壁はない

さて、トロイ落城後、物語には二つのルートがあります。

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トロイ落城後、物語には二つのルート(王道ルート、裏ルート)がある。

王道ルートは、同じくホメロスの描いた『オデュッセイア』。ギリシア軍のオデュッセウスの後日譚を追いかけるルートです。同じ作者だし、同じギリシア軍の後日談なので、普通はこちらのルートを読むことになります。

ユリシーズとオデュッセイア

そしてもう一つの裏ルートが、ウェルギリウスの描いた『アイネーイス』。トロイ軍のアイネイアスの後日譚を追いかけるルートです。違う作者だし、これまでギリシア軍目線だったものが、急にトロイア目線に変わるため、一般的なルートではありません。

三国志でたとえていうと、劉備の『蜀』目線で読んでいたのに、司馬懿のあたりから急に『魏』目線で読むとなったら、ふつう読者は混乱するのではないでしょうか? 思い入れってものがありますからね。

写本による淘汰。『イリアス』と『オデュッセイア』のあいだ。テレゴノス・コンプレックス

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ダンテ『神曲』の縁から、ウェルギリウスの『アエネーイス』を読む

わたしがどうして一般的なルートではない『アエネーイス』を読んだのかといえば、ダンテの『神曲』の縁からです。このルートからアエネーイスにたどり着く人は多いのではないでしょうか。

ダンテの『神曲』はキリスト教文学の最高傑作に数えられている作品です。ダンテが地獄と天国をめぐる見聞録のような作品ですが、その地獄世界の案内人としてダンテの詩の師匠としてウェルギリウスが登場するのです。

谷口江里也・ギュスターヴ・ドレ。ダンテの『神曲』の素晴らしさ

そのウェルギリウスが書いたのが『アエネーイス』。トロイ戦争後のトロイ側の裏ルートを描いた物語なのでした。主人公はアイネイアスアエネアースと表示されることも多いのですが、いいにくいので以下アイネイアスと呼びます。

タイトルの『アエネーイス』はアイネイアスの物語という意味です。『オデュッセイア』がオデュッセウスの物語という意味であるのと似ていますね。

わたしは小説風に翻訳したものを読んだのですが、本来は詩として読むべきものなのでしょう。神曲ではダンテにウェルギリウスは詩の師匠として扱われています。

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『イリアス』『オデュッセイア』に登場していたギリシアの神々がローマ名で登場

タイトルの付け方からして酷似しているように、『アエネーイス』は『オデュッセイア』と似た作風です。オレ版オデュッセイアぐらいの感覚でウェルギリウスはアエネーイスを書いていると思います。

『イリアス』『オデュッセイア』に登場していたギリシアの神々がローマ名で登場します。

ゼウス→ユピテル。ヘラ→ユノ。アフロディーテ→ビーナス。ポセイドン→ネプチューン。ヘルメス→メルクリウス。クロノス→サトゥルヌス。パラス・アテナ→ミネルヴァなどです。なぜかアポロンはギリシアでもローマでもアポロン。

ギリシア名の神名の方が馴染みがある方は、脳内で名前を変換して読みましょう。

ハルピュイア、キマイラ、スキュラなど怪物たちもホメロスと同じように登場します。怪物の名前にギリシア、ローマで違いはありません。

人々の風俗、残酷な描写、信心ぐあいなども似ています。たとえばアキレウスに殺されたヘクトルの妻アンドロマケ未亡人は、アキレウスの息子ピュロスの愛人奴隷にされ、その後、ヘクトルの弟ヘレノスに払い下げされるという「えぐい人生」を送ります。義経の母の常盤御前みたいだな。

アポロンの神託がひたすら尊重され、大切にされています。

キリスト教以前の作品であるため、作者ウェルギリウスもアイネイアスなど登場人物も、ローマの神々を信仰しています。キリスト教文学だったダンテの神曲でウェルギリウスが「天国には行けない設定」となっているのは、キリスト教の洗礼を受けていないからです。エホバを信仰していないからです。

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藤子不二夫の『T・Pぼん』。『トロイが亡びた日』に登場するのはアイネイアス

トロイア落城のとき、老人を背おい、子供の手を引いて逃げる男がいたら、それがアイネイアスです。

藤子不二夫の『T・Pぼん』というタイムパトロールをあつかったSF漫画があります。『T・Pぼん』の中にはトロイ落城をエピソードに扱った回があります。『トロイが亡びた日』というエピソードです。その場面の挿絵に、トロイ落城の場面で、老人を背おい、子供の手を引いて逃げる男が描かれていますが、これがアイネイアスです。父アンキセスは別の戦争で下腹部を刺されたため足が不自由だったのです。

この挿絵の男がアイネイアスだとわかる人はとても勉強している人か、イタリア人でしょう。ちなみにどうしてイタリア人にはわかるのか、については後述します。

もちろん藤子不二夫先生は前者です。『T・Pぼん』を読んでいると、ものすごく勉強されていることに驚かされます。『カンビュセスの籤』など歴史的なことを詳しく勉強した上でマンガに落とし込んでいることがわかります。

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ブラッド・ピットがアキレウスを演じた映画『トロイ』にもアイネイアスがチョイ役で登場

ブラッド・ピットがアキレウスを演じた映画『トロイ』でも落城のシーンにアイネイアスが登場します。チョイ役、脇役ですが、アイネイアスが本当の主人公になるのは、この先の逃避行からなのです。

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トロイア落城の謎。石造りの城砦がどうして劫火に包まれるのか?

しかし石造りの城がどうして猛火に包まれるんだろうな(笑)? そこは私にはいつも謎です。

木馬は燃えても城壁は燃えないと思うのですが……まさか城壁の中は木造住宅が密集してたとか(笑)?

映画『トロイ』でも木の部分だけが焼けたことになっています。

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阿刀田高さんの『新トロイア物語』現代風にリライト

『イリアス』『オデュッセイア』を読んだことがないのに、ウェルギリウスの『アエネーイス』に興味をもってしまった方は阿刀田高さんの『新トロイア物語』がおすすめです。原作では「人の運命は神のきまぐれ」であるかのように描かれている三作品を、なるべく現代風の解釈で納得できるような書き方をされています。

たとえば美の神ビーナスの子アイネイアスは、阿刀田版によれば、正妻の子でない妾や奴隷の子を、そうとは公言できないので、祭司に神を積んで「神の子」だと神託してもらうことで出世のための箔をつけられたのだ解釈しています。もちろんばく大なお礼が祭司に支払われました。それを王に認められて、正式に半神の子へロス・ヒーローとなったのでした。

海の神テティスの息子アキレウスもウソで、貴族の子で、あきらかに才能のある子だけが、神の子という地位を祭司から買うことができるという風に描かれています。地位を金で買うことは昔からどこにでもありました。このように現実風に描かれているので、ひじょうに読みやすいのです。

ケンタウロスとかスキュラキマエラゴルゴン姉妹ハルピュイアキュクロプスなどが当然の存在として実際に登場する原作アエネーイスとは趣を異にしています。「そういう怪物が出るという噂がある」という程度に抑えらえて荒唐無稽の空想物語になることを避けています。

エーゲ海から逃避行する美女ヘレナの「船酔い」までもリアルに描いています。

通常、アキレウスを主役とすることが多いトロイア物語の主人公にアイネイアスを据えたのは、もちろん阿刀田さんがアエネーイスを意識しているからです。王道ルートではなく、裏ルートの方を描いているからです。

現代の中学生がアキレス腱が断裂したって死にませんから、不死身の勇者アキレウスがアキレス腱を射られて死ぬのは不自然です。阿刀田版ではアキレス腱と胸に刺さった槍で死ぬことにしました。映画『トロイ』も致死傷となった胸に刺さったパリスの矢はすべて抜いたが、死体にアキレス腱に刺さった弓矢だけが残っていたことにして「アキレス腱が勇者の弱点だった」伝説を外さないようにしています。

また腹に人がひそんでいる巨大な木馬を城内に引き入れるのはあまりにも不自然です。阿刀田版では木馬をまじないで神への供物として燃やして、トロイの城壁は地震で崩れたことにしています。その代償としてバチカン美術館の彫刻で有名なラオコーンが登場しません。ラオコーンは木馬を城内に引き入れるのに反対したために、神意によって海から来た巨大な蛇にしめころされてしまうという神さま系のエピソードなので、阿刀田版にはなじみませんでした。カサンドラの予言力も同様の理由で省略されています。

アガメムノンの娘イピゲネイアは普通に犠牲に捧げられて死にます。また原作だとトロイア最大の英雄ヘクトルは、アキレウスに追い回されて城壁を三周も逃げたのですが、阿刀田版では「逃げの計略」ということにして英雄の体面を保っています。

【世界がっかり名所】トロイ遺跡は「遺構」。ヘクトルが逃げ、アキレウスが追いかけた城壁はない

このように不自然さを解消しつつも、負けた側の女性が性奴隷にされるなど、リアルにホメロス、ウェルギリウスの世界を展開しています。小アイアスによるカサンドラのレイプなど、毒はけっして薄められていません。

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『アエネーイス』は『古事記』。アイネイアスは神武天皇

ほとんどホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』では活躍することのないアイネイアスですが、主役を張る『アエネーイス』では「パリスと一緒にスパルタを訪問しヘレナ略奪に立ち会う」「プリアモスのヘクトルの遺体返還の懇願に同行してアキレウスを見る」「トロイ落城」の三場面ではそれなりに活躍を見せています。

トロイ落城の場面で、老人を背おい、子供の手を引いて逃げる男が描かれたら、それがアイネイアスです。それがわかる人はとても勉強している人か、イタリア人だと先ほど言ったのはどうしてでしょうか?

それはイタリア人はみんな『アエネーイス』を知っているからです。『アエネーイス』はイタリア人にとって自分たちの国の歴史のはじまりを記した物語。日本人にとっては『古事記』みたいなものだからです。

トロイアが陥落した際、アイネイアスはトロイを逃亡します。そしてトロイ再建の夢をいだいて、旅に出るというのが『アエネーイス』の展開です。最終的にはイタリアのテベレ川河口の都市にたどり着き、そこのラティウムの王女と恋をして、周辺諸国を平らげて、トロイアの再興は夢は成る、という物語なのです。

ラティウムはラテンの語源です。アイネイアスの子どもユールスから、ユリウス氏(『ガリア戦記』のユリウス・カエサル)ができたとされています。さらにその子孫のオオカミに育てられたというロムルスがローマの建国者となります。

つまり、ローマ帝国とはラテンとトロイの血から成った帝国だということです。そのローマ帝国は現在のイタリアにつながっています。ですからアイネイアスは国父、日本でいえば神武天皇みたいなものなのです。イタリア人にとってはは『オデッセイ』よりも、アエネーイスのほうが王道ルートかもしれません。

ラテン語で書かれており、ラテン文学の最高傑作と呼ばれています。

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最終的に勝ったのはトロイア? アイネイアスはまさかの勝ち組

ローマ帝国はトロイアの後継国家ということになるのです。見方を変えれば、トロイア側の壮大な復讐劇のようなものです。いったんは破れた源氏が捲土重来してやがては平氏を滅ぼすように、いったんは破れたトロイはローマ帝国になって最終的にギリシアを圧倒します。歴史を大きく見ると、最終的に勝ったのはギリシアなのかトロイアなのか(源氏なのか平氏なのか)わからなくなります。

最終的に勝ったのはトロイアで、アイネイアスは勝ち組なんじゃね?! とさえ思います。

物語の元祖、トロイア戦争の「その後」は表ルート(オデュッセイア)も面白いが、裏ルート(アエネーイス)も負けず劣らず面白かったです。すくなくとも苦心惨憺たる航海の末、やっとのことで故郷イタキ島に戻り、愛妻ペーネロペーと夫婦生活を取り戻しただけのオデュッセウスよりも、アイネイアスの方が歴史的には大きな存在だったといえるかもしれません。

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