アルベール・カミュ『異邦人』
ここではアルベール・カミュ『異邦人』について語っています。
カミュ『ペスト』この世から病気がなくなっても、死と別離はなくならない。
赤字はわたしの感想、黄色は本書からです。
カミュ『異邦人』のあらすじ・詳細
今日、ママンが死んだ。
ママンはもう埋められてしまった。また私は勤めにかえるだろう。結局、何も変わったことはなかったのだ、と私は考えた。
主人公ムルソーは自分の女を懲らしめようとしている女衒の手紙の代筆を頼まれます。モール人の女は女衒に殴られます。その復讐をしようとする兄と女衒は暴力的に対立することになりました。ムルソーはそのたたかいに巻き込まれ、匕首を抜いて刃を向けてくる相手に、女衒からあずけられていた拳銃の引き金を引いてしまうのです。耐えられぬほど暑い日でした。海の波しぶきが輝いていました。ママンを埋葬した日と同じ太陽でした。すでに死んでいる体に四発さらに打ち込みました。そして警察に逮捕されるのです。
誰だって生活を変えるなんてことは決してありえないし、どんな場合だって、生活というものは似たり寄ったりだし、ここでの自分の生活は少しも不愉快なことはない。
生活を変えるべき理由が私には見つからなかった。私は不幸ではなかった。野心など一切は実際無意味だ。
けっきょくは何も変わらない、という人生スタンスは大昔からありました。夢をかなえようと、かなえまいと、結局、人は死んでしまいますし、最終的には何ひとつ残りません。人類は滅び去るだろうし、地球もなくなるだろうし、すべては塵と消えるのです。ムルソーはそんな男です。
『種の起源』人類はやがて絶滅する(ダーウィン名探偵はDNAを知らない)
君が望むなら結婚してもいい。そんなことは何の重要性もない。
深くママンを愛していたが、しかし、それは何ものも意味していない。
いうべきことがあまりないので、それで黙っているわけです。
海へと降りていきたい。水の中での解放感。……生きたまま枯れ木の幹の中に入れられてもだんだんそれに慣れていくだろう。私は枯れ木の中に入れられたのではない。私より不幸なものだってあったのだ。人間はどんなことにも慣れてしまうものなのだ。
牢獄の苦しみは女(異性)と断たれる苦しみ
女に対する欲望で苦しんだ。こんな待遇は不都合だ。あんたがたを牢屋へ投げ込むのはこれあるがためでさあ。自由ってのはすなわちこれですよ。あんたがたは自由を取り上げられるんでさあ。そうでなかったら懲罰とは何だろう? 結局連中はみずから慰んでいますよ。
私は牢獄系の本が好きなのでよく読んでいるのですが「カネさえあれば牢獄では何でも手に入る。女と自由以外は」というフレーズがよく登場します。自由とは異性との交遊のことなのでしょうか?
ドストエフスキー『死の家の記録』シベリア獄中記のあらすじと感想
堀江貴文『刑務所なう。』最も自由な奴は、最も不自由な場所にいる!
誰にも害をあたえぬものを、なぜとりあげられてしまうのか。
母の死の翌日、この男は、海水浴へゆき、女と情事をはじめ、喜劇映画を見に行って笑い転げたのです。
自分の滑稽さを承知しつつ、それは太陽のせいだ、といった。
人を殺したのは太陽のせいだ。本書でもっとも有名なフレーズがこちらです。
われわれはすべて死刑囚なのだ。
人間は全く不幸になることはない。
人生が生きるに値しない、ということは、誰でもが知っている。結局のところ、三十歳で死のうが、七十歳で死のうが、たいした違いはない。今であろうと、二十年後であろうと、死んでゆくのは、同じくこの私なのだ。
一瞬……だけど閃光のように、まぶしく燃えて生きろよ(笑)。未来が5分でも50年でも。
神を信じていない。そんなことはつまらぬ問題だと思う。その事柄には興味がなかった。
われわれはすべて死刑囚なのだ。
あなたは何の希望も持たず、完全に死んでゆくと考えながら、生きているのですか?
ママンは養老院で開放を感じ、生き返るのを感じたに違いなかった。何人も、何人といえども、ママンのことを泣く権利はない。
「母親の葬儀で涙を流さない人間は、この社会で死刑を宣告される恐れがある。お芝居をしないと、社会では異邦人として扱われるよりほかない」カミュは自作のことをこう述べています。
泣くべき時に泣かない人間はのけ者にされます。こういう同調圧力というのは島国日本だけじゃなくてどこにでもあるんですね。
私ははじめて世界の優しい無関心に心を開いた。これほど世界を自分に近いものと感じると、自分が幸福であることを悟った。私が孤独でないことを感じるために、処刑の日には大勢の見物人が集まり、憎悪の叫びをあげて私をむかえてほしい。
「人間とは無意味な存在だ。すべては主観の問題だ」とカミュはいいたいのでしょうか。言葉にすればたったこれだけで誰もかえりみないものを、物語にして表現すると心に残ってしまうのですから、小説芸術はおもしろいなあ、と思います。