『逆説の日本史』(井沢元彦著)

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作家は人間を描くことが本職

『三千年の歴史から学ぶことを知らぬ者は、知ることもなく、闇の中にいよ。その日その日を生きるとも』

ドイツのゲーテの有名な言葉ですが、われらが歴史に求めるものは何でしょうか。歴史からいったい何を学べと言うのでしょう。

『逆説の日本史』(井沢元彦著)がとてつもなく面白いのは、一言で言えば、プロの推理小説家が書いているから、ということに尽きると思います。

歴史家は歴史的事実の証明が本職ですが、作家は人間を描くことが本職です。井沢氏の場合、歴史書の体をとっていても描きたいのは「人間」なのだと思います。

われらが歴史に求めるものは、×年に●が起こった、という事実ではありません。

そこから学べることは小さい。

その時、人間(歴史上の人物)が、こういう感情に動かされて、こういう行動をとった。その行動の結果、まわりの人間の人生がこうなった。

そんな他者の経験です。

『逆説の日本史』で描かれているのは、この小さなセンテンスの繰り返しです。われらが歴史に求めるものは『他人の経験』です。そこからは多くのことが学べます。

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歴史に求めるものは『他人の経験』

歴史上の人物は一人ではありませんので、思惑が外れたり、衝突したり、和解したり、失脚したり、悲惨な最期を迎えたり、いろいろな人生があります。

才能ある人物がむなしく切腹したり、歴史に名を残すはずだった人物が暗殺されたり処刑されたりします。勝ち組の都合のいい歴史の中に、本当の真実は埋もれてしまったりします。その結果の大きな歴史です。

たとえば賄賂によって大きくなった大商人はどういう運命をたどったのか?

たとえば衆目一致で才能アリとされていた人物が成功しなかった理由は何だろうか?

など、本当の教訓というのはノンフィクション(歴史)から学ぶべきだろうと思います。

歴史の「その時」というのは、生死を賭けた場面だったりしますので、その人の人間性とか覚悟とかが如実に現れます。

また全員死んでいますので、本人が知ることのなかった死の運命を知った上で、彼の業績を時間を遡るようにして眺めることができます。

どこを死に場所に選んだか、夢をかなえるための寿命が足りなかったんだなあとか、ここで死んでおけばよかったのに長生きしすぎたなとか。

本当に人生いろいろなんだなあ、というのがわかります。つまりあなたの人生もいろいろなのです。そして私の人生も。

こういうことはフィクションではなく、本当にあったお話でなければ、生きる指標とはなりにくい。

そういう人間の心境描写が作家らしい想像力で描かれている。だから『逆説の日本史』は面白いのでしょう。

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井沢探偵が推理する推理小説

この本が『逆説の』と名乗っているのは、定説とされている歴史上のさまざまなことに異を唱えているからです。しかし新事実の発見があったから異を唱えているわけではありません。

むしろ歴史家たちが信じてきた「本人の発言・回想録」「その場にいた人たちの証言」などは本当に信用できるのか、と疑うことから井沢探偵ははじめます。

それは嘘ではないか。嘘をついたのは恥をかきたくないからではないか。嘘を立証できる相手がもう死んでいるから言いたい放題なのではないか。勝ち組が戦功を誇張して語っているのではないか。全ての失策を負け組に押し付けたのではないか。勝ち組の権力者が言うことに、周りにいた人たちは否と言えなかっただけではないか。「内緒にしてくれ」と言われた武士は墓場まで秘密を持って行ったのではないか。日本書紀は大本営発表なのではないか。

証言を信じるよりも、行動を信じた方がいい。公式発言はタテマエで、ホンネは行動の中にある。

私もそう思います。

いくら口で「嫌い」と言っていても、目が好きと言っているのならばそれは「好き」なのです。それを見せるのが作家の仕事です。文献主義では「嫌い」ということになってしまいます。

名探偵が推理するように、著者は歴史を推理します。

井沢氏はそのように歴史上のキーマンの行動をもとに、その本当の心を想像し(証拠はない)、行動や時代の流れに合わない証言や文書(証拠はある)などを否定します。

その過程が推理小説を読むように面白いのです。

これまでの通説を当人の行動(人間の心情)から否定するわけですが、行動という証拠を見れば、なるほどと納得させられます。

面白そうな幕末のところから先に読んだのですが、予想外に面白かったので、歴史の始めから全巻通読してみたいと思いました。

ベースの歴史観がないと「逆説」の部分がわからないので面白さは半減かもしれませんが、それでも非常に面白いです。

このシリーズはこれまで読んだ歴史本の中でいちばんおもしろいものです。

推理小説として読んでもおもしろい。

一読ください。おすすめいたします。


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