死に際して、これ以上あれこれ考えるのは無駄なこと
ヴィクトル・ユーゴー作『死刑囚最後の日』この本は、監獄に収監された死刑囚が、死刑に処されるまでの心境を描いた小説です。
文豪ヴィクトル・ユーゴー作なので、ほかの誰にも書けないような死にのぞむ心理が描かれているかと期待して読みました。
死はいったいわれわれの魂をどうするのか? いかなる実体を魂に残すのか? 死は魂から何を奪い、あるいは魂に何をあたえるのか? 死は魂をどこに置くのか? この地上で眺めるため泣くために肉眼を魂に貸してやることがあるのか?
死刑囚の心に問いだけが次々と浮かんでは消えていきます。
ここに提示された疑問に真新しいものはありません。誰もが思い浮かべるような疑問ばかりです。
同様のモチーフでトルストイも作品を残しています。
トルストイ『イワン・イリッチの死』死とどう向き合うかは作家の執筆動機の筆頭。死の直前の回想は作家ならモチーフにしたい状況
死に際しては、いつも同じような問いだけがあるのです……答えはありません!
ヴィクトル・ユーゴーでさえ、何ら新しいものを提示することはできませんでした。
これ以上、このことについて考えるのは無駄だということです。
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このブログの著者が執筆した「なぜ生きるのか? 何のために生きるのか?」を追求した純文学小説です。
「きみが望むならあげるよ。海の底の珊瑚の白い花束を。ぼくのからだの一部だけど、きみが欲しいならあげる。」
「金色の波をすべるあなたは、まるで海に浮かぶ星のよう。夕日を背に浴び、きれいな軌跡をえがいて還ってくるの。夢みるように何度も何度も、波を泳いでわたしのもとへ。」
※本作は小説『ツバサ』の前編部分に相当するものです。
アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。
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一方的な独白だけを聞かされるアンフェアな書物
『死刑囚最後の日』は死刑をなくそうという意図のもとに書かれたそうです。ですから、死刑囚がどんな罪を犯したのかは最後まで書かれていません。できるだけ一般化するために、どんな犯人にも誰にでも当てはまるように、具体的な罪状は描かれていないのです。
もし彼が残虐な犯罪を犯していてそのことで「死刑も当然」と読者に思われてしまったら、死刑をなくそうという作者の意図を達成することはできません。
しかしこの書き方はフェアじゃないとわたしは思います。読者の同情が一方的に死刑囚に向かうからです。
「わたしのかわいい小さなマリー(娘)を見たなら、三歳の子どもの父親を殺してはいけないことを(みんな)了解しただろうに」
「ここに生きて、動いて、息をして、どこにでもいることのできる、この私、死ぬのはこの私なんだ」
死刑囚が死刑に処されるまで、このような独白がずっと続きます。当然、読者のなかには死刑囚を「気の毒に」思う人もいるでしょう。しかし犯罪被害者の家族に対して「気の毒に」思う機会はあたえられていません。
死刑囚は恩赦を願います……アウシュビッツの強制収容所での体験記『夜と霧』にも描かれていた恩赦妄想です。
「死に目にびくびくするもんじゃねえ。そりゃあお仕置き場でちょっとの間はつれえさ。だがじきにすんじまわあ」
死刑囚はギロチンで殺されます。さすがフランスですね。現在、フランスでは死刑は廃止になっているそうです。ヴィクトル・ユーゴーの本書の功績もあったのでしょうか。
何のために生きているのか。なぜ生きるのか。死の意味は?
この本に真新しいことは何も書かれていません。
そういう意味では、本書は文豪だからこその作品だといえるでしょう。彼のポジションが作品を成立させています。
大成功した経営者が「あきらめるな。どんな逆境でも探せば道は見つかる」といえばみんな耳を傾けてくれますが、市井の無名が同じことを言っても誰も聞いてはくれないでしょう。それと似たようなものです。
ヴィクトル・ユーゴーの『死刑囚最後の日』は、死刑囚に仮託した、誰にでもいつかはおとずれる死にのぞんだ心境を描いた書物です。しかしそこに世界的な文豪だからこそのなんらの新しい知見はありません。
描写はともかく、その心境は、あなたにでも書けるでしょう。わたしにも書けます。いわば文豪だからこその作品だといえます。大文豪だからこそ、みんなが読んでくれる作品なのです。
死に際しては、いつも同じような問いがあるだけなのです。ヴィクトル・ユーゴーでさえ、何ら新しいものを提示することはできませんでした。
ここから学べることは、これ以上、その問題について考えるのは無駄だということです。
偉大な宗教家も、偉大な文豪も、死の意味を探求し続けてきました。しかし特別な何かを見つけることはできませんでした。
あると思い込んでいますが、そんなものはないからなのでしょう。それが結論なのだと思います。
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このブログの著者が執筆した「なぜ生きるのか? 何のために生きるのか?」を追求した純文学小説です。
「きみが望むならあげるよ。海の底の珊瑚の白い花束を。ぼくのからだの一部だけど、きみが欲しいならあげる。」
「金色の波をすべるあなたは、まるで海に浮かぶ星のよう。夕日を背に浴び、きれいな軌跡をえがいて還ってくるの。夢みるように何度も何度も、波を泳いでわたしのもとへ。」
※本作は小説『ツバサ』の前編部分に相当するものです。
アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。
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