旅人が旅を愛するようになる理由(わけ)
旅人が旅を愛するようになるのには、いくつもの理由がある。
ドラクエのようにリアルワールドをフィールドに、大冒険してみたいと思ったこともそのひとつだ。
しかし大冒険といってもただ移動するだけではつまらない。前人未到の地ならともかく。
ドラクエにはモンスターがいるが、このリアルワールドには何がいるのだろうか。
人である。
旅とは人と出会うこと。
旅によって、これまで知り合うことのなかった異種の人間と出会うことは、ドラクエでいえばモンスターに出会うようなものだ。
他人の影響力、攻撃力は計り知れない。雑魚キャラから、ボスキャラまで様々だ。
恋人や親はラスボス級で、恩師や振られた女は中ボス級、興味のない職場の同僚はザコモンスターといったところだろうか。
旅先でちょっと会話するぐらいの人は、基本的に雑魚モンスターなのだが、ときどき強烈な攻撃をしかけてくるやつがいる。
今日もそんな攻撃を仕掛けてきたやつがいた。敵はまだ年端も行かない少年である。
肉声には力がある。リアルな人間こそ影響力が強い。
肉声には力がある。リアルな人間こそ影響力が強い。
家の中で本や映画などメディアに出会うだけではインパクトが足りない。彼らは攻撃してこないからだ。
こちらの存在を脅かしてくるようなアタックを仕掛けてはこない。
リアルワールドの住人は、ときとしてこちらの生き方を変えてしまうほどの影響で、言葉や行動が魂に響いてくることがある。
街角で偶然聞いてしまった政治家の演説や坊主の説法なんかがラスボス級だったりする場合があるのだ。
旅先でのこと。
とある高速道路のサービスエリアで、一人の少年が母親に話しかけていた。
「ママー、見て。なんかロボットがあるよ」
男の子の声が耳に入った。私に話しかけてきたわけではない。
声の方を見たら、ガンダムだった。
そして私はラスボスのアタックを受けたような衝撃を受けたのである。
少年よ。君はガンダムを知らんのか。
ああ、やっぱり永遠のものなんてないんだな。
私はうちひしがれ、大幅にHPを減らしながらも、なんとか平然を装う。
少年よ、そういう君はもちろん「グレンダイザー」なんて知らんだろうな。
少年はどんな世界を生きているのだろうか。
同じ世界を生きているのに、おれとはまるで違う地平に暮らしているんだろうな。
永遠のものなんてない。だから今がすべて。
とうにわかっていたことだけれど、さびしかった。
こうしているいとしい今も、いつか消えてしまう。
そのことを噛み締めた、旅先の出来事だった。
あの少年もいつか私と同じ立場になって、別のラスボスから「永遠のものなんてない」攻撃を受けるんだろうな。
少年よ。これが旅だ。
いつかどこかでまた会おう。