ソロ活。おひとりさま活動とは何か?
最近、ソロ活という言葉が流行っています。増加する独身男女にとっては「パートナーがいないとできない活動」というのは「自分のできないこと」になってしまいます。世の中、けっこうそういうの多いんですよね。たとえばスポーツ観戦とかコンサートとかフランス料理とか一人で行く気になります? 私は全然そんな気になりません。そんなところにのこのこ出かけて孤独をかこつぐらいなら家でブログでも書いていた方がマシというものです。
でも「誰かと一緒じゃないとできない活動」というのは意外と思い込みや偏見であって、やればひとりでもやれるものだったりします。その気になれば焼肉屋だってひとりで入れますし、キャンプだってひとりでやれます。このように何でも一人でやってしまおうという趣味の一形態をソロ活といいます。二人以上で行くのが普通と思われるディズニーランドとかにひとりで行ってしまうことをソロ活というのです。おひとりさま活動ということもあります。
実はわたしもソロ活は昔からやってきました。たとえばランニング。これは究極のソロ活動です。私は音楽を聴きながら走るのが大好きなので人と一緒だと音楽が聴けません。ランニングは一人の方がいいな、といつも思います。ペース設定も自分でできますし。
執筆、読書なんかも一人の方がむしろ向いています。周囲に人がいない方が自分の世界に入りやすいからです。
私的個人的・世界十大小説。読書家が選ぶ死ぬまでに読むべきおすすめの本
ソロ活する人は、どっちかというと人間関係が苦手な人が多いんじゃないでしょうか。他人に気を使うのが疲れるとか、他人にあわせて自分の好まないことをするぐらいならば、自分ひとりで好きなことをする方がものごとを先に進めることができます。
しかしソロ活の王者ランニングもさすがに毎日は走れません。休足日が必要ですし、ずっとやっていると単調さゆえに飽きがきます。
ランニングは単調な運動。単純だからこそ、わずかな違いが大きく効いてくる
そこで何か新しいソロ活はないかと探していたところ、おもしろいものを見つけました。それが「援農ボランティア講習会」というもの。一回あたり500円で3時間。合計8回のコースです。合計料金は税込みで4400円というもの。合計24時間で4400円というのはとても安いなと思いました。24時間も遊ばせてもらって4400円で済むならばコスパ最強ではないでしょうか。問題は、これを「おもしろい」と感じられるかどうか。その感受性にあります。
「氷点下で生きるということ」アラスカでの生活をこの日本で疑似体験してみる
私が援農ボランティア養成講座をやってみようと思ったのは、「氷点下で生きるということ」というアラスカで生きる人たちのドキュメンタリー番組を見たのがきっかけでした。
氷点下のアラスカのチェーンソーで木を切ったり焚火をしたりスノーモービルに乗ったりヘラジカをハンティングしたりしている人たちを見て、自分も同じようなことをしてみたくなったのです。
『氷点下で生きるということ』(LIFE BELOW ZERO°)の内容、評価、感想、ツッコミ、総評
とはいえこの日本でアラスカのアメリカ人と同じことをやるのは難易度が高すぎます。ショットガンでグリズリーやエルクやカリブーを射殺してナイフで解体するのは無理ゲーでしょう。実際にやったらそれこそ星野道夫さんになってしまいます。
しかし狩猟の替わりに作物の収穫ならば、この日本でも簡単にできるのではなないでしょうか。チェーンソーの替わりに草刈り機、スノーモービルの替わりにトラクター、トナカイの肉を焚き火であぶる替わりに、収穫したサツマイモを焚き火で焼き芋にして食べるぐらいのアウトドアならこの日本でもできるだろうと思ったのです。
狩猟は楽しそうですが、獣肉ばかりを食べていくのはちとキツイと思いました。どちらかといえば私は草食動物です。
援農ボランティア養成講座とは?
私が参加した「援農ボランティア養成講座」とは、ある農園が運営している講座でした。私が申し込んだ農園は地元の市議会議員さんが運営管理者でした。議員の仕事をしつつ、自分の時間に農家をやっているそうです。先祖の土地ではなく、土地は借地だそうです。遊休農地を借り上げて農園を経営しているというわけです。遊休農地は全国的に問題となっていますので、議員みずから解消に乗り出すのはいいことですね。
その農園では、30平米の区画に区切って畑を貸していました。よくある市民農園みたいなものです。月額4500円。貸している畑は自分の好きな作物がつくれる自由農地と、みんなで勉強しながら同じ作物をつくる「土の学校」とに分かれていました。自分で作物を作ってみたいけれど農業経験のない人は、みんなで同じ作物をつくるタイプを選べば、つくりかたを管理人さんが教えてくれます。講座を受けて、種や苗をもらって、道具も借りて、育て方から収穫のしかたまでぜんぶ教えてくれるので安心というわけです。
そこまで一足飛びにはいかない人のためには「援農ボランティア養成講座」があるというわけです。基本的作業は草刈り、コンポストの作成、圃場の整備、各種農機具の操作、収穫などです。
この農園では雑草処理にヤギを二匹飼っています。そのヤギのフンを清掃するのも援農ボランティアの仕事。それは嫌だ、と断るわけにも行きません。草食動物なのでフンはそれほど臭くはありません。集めたフンはコンポストに捨てます。するとヤギ糞堆肥ができるというわけです。
草刈り機の起動方法
草刈り機の起動方法ですが、10:1の混合オイルを入れて、シュポシュポと燃料を送り込みます。そしてバルブを「開」にしてリコイル(スターターロープ)を引っ張ります。刈払機でいちばんむずかしいのは起動だったりします。
刈刃が回転したらあとは雑草に当てていくだけです。ぶっ壊し系の作業なので素人でもすぐに即戦力です。作業に繊細さは必要なく体力さえあれば何とか作業をこなせます。だから農業しろうとの私たちの最初の作業は草刈りでした。気分はアラスカの人たちが使っていたチェーンソーの替わりです。
手で雑草を抜くこともしました。そして雑草を抜いた畑に水菜の種を植えました。ゴマぐらいの小さい種でした。周囲の土を圧迫しないと種のまわりから水を吸収しないそうです。手でポンポン叩いて圧迫しました。
そしてゴミ捨て場(コンポスト)の移転作業。土にかえった部分を畑に運びます。畑というのは土が大事だと教わりました。
「園芸家は花の香りに酔う蝶になんかはならない。土の中をはいまわるミミズになるだろう。」
「湿り気があってフカフカでいつでも耕すことができる土。そこに植えようと思っていた花のことなんかもうぜんぜんきみは考えない。この黒々とした、空気を含んだ土のうつくしい眺めだけでたくさんではないか?」
「急に園芸家は思い出す。たった一つ、忘れたことがあったのを。——それは庭をながめることだ。」
私はカレル・チャペックに聞いて知っていましたが、やっぱりそうなのか、と思いました。
趣味の園芸家になるために。『園芸家12カ月』カレル・チャペックの内容、感想、書評、評価
コンポストの天地返しを行う中で、そこに捨てた廃棄サツマイモから発芽した大きなサツマイモを収穫しました。これを食べるのには勇気が必要だ。畑というよりはゴミ捨て場で生育した芋だから。いや、ゴミ捨て場というよりは正確にいうと「ヤギ糞堆肥」なのである。雑草とヤギのクソを混ぜて土に返そうというシステムなのだ。
動物の狩猟も同じですが、食べる物は捕ってるところは見るべきじゃないな、と思いました。いただいたサツマイモは皮を丸ごと剥いて食べました。味はよかったです。
「こまめ」という管理機もリコイルを引っ張って起動するのは同じです。燃料はガソリンですが。
廃車軽トラックも運転しました。気分はアラスカの人たちが四輪バギーを操縦していたことの替わりです。
雑草マルチ。雑草マルチング
園芸栽培においてマルチングは防寒対策として有効な手段です。人間が冬にはたくさん服を着こむように植物の根元に服を着せてあげるのがマルチングです。ビニールや、チップ材などでマルチングするのが普通ですが、わたしが研修した農園では「雑草マルチ」を行っていました。雑草マルチというのはコンポストに捨てる雑草を植物の防寒着として土の上にかけてやることです。マルチング材が雑草なのが雑草マルチです。
あまり雑草マルチをやっている農園は少ないようです。なのでとくにここに記しておきます。
やりたいのは「生きることに直結した仕事」
さて「ソロ活」として参加した「援農ボランティア養成講座」。
勉強にもなったし、こちらがやりたいと思っていた「生きることに直結した作業」をやらしてくれるので、文句をいうつもりはありません。しかしこれは見かたによっては体よく使われているともいえます。ヤギのフンの清掃など、同じ作業をお金をもらってやっている仕事人もいるだろうと思います。要は労働力として使われているわけです。しかしそもそも援農ボランティア養成講座と銘打っている以上、無償のボランティアであることに文句を言うこともできません。無償で奉仕することははじめから申込条件になっているのです。
だったら無料でいいじゃないか、こっちは労働力を提供しているのだから、と言えなくもありません。
しかし実態は、無償どころか実際には奉仕している側がお金を払っているのです。
これぞマジック。お金をもらって、さらに労働力まで手に入れることができるのです。
雨の日には道具のリペア。講習会という名の労働力動員
雨の日には道具のリペア講習会がありました。もちろんこれも講習会という名の労働力動員といえなくもありません。
道具は刃物が多いので注意する。道具の汚れを落とし乾燥させる。刃物を研ぐ。
このような講習の後、実際に道具の汚れを落とし、刃物を研ぐ作業をやらせます。
やらされている方も楽しんでやれますし、やらせる方も労働力をお金をもらいながらゲットすることができるというわけです。
かぼちゃの大収穫
援農ボランティア講習会の最終日にはかぼちゃの収穫がありました。およそ100個のかぼちゃをハサミで狩って収穫です。かぼちゃの蔦は10メートルほどもあり農園に横に這っています。人間が蔦の先端をもって引っ張ったのかと思いましたが自然とそのように横に這うそうです。障害物があってもその上に張っていくそうです。そこに花が咲き、そこにかぼちゃの実がなります。しかし100個収穫しても直売所で売り物になるのは30%ぐらい。その他のものは売り物になりません。農家は売れないものをたくさん作ることよりも売れるものをより多く作るほうに精力を集中した方がいいみたいです。直売所で売れないものをお土産にいただきました。
収穫祭。
そして援農ボランティア講習会の最終日は「収穫祭」です。農園で採れたサツマイモ、ニンジン、水菜、もち麦などを使って、サツマイモ鍋とバーベキュー。もち麦ごはんと水菜のサラダが振舞われました。
参加者は我々農園ボランティアのほか、区画レンタル利用者、そして借地の地権者も招待されていました。
おみやげのかぼちゃもいただき、大満足の収穫祭ですべての日程は終了。
その後、農園管理者から「お疲れさまでした」の終了メールが届きました。そこには「もしよろしければ今後も農園ボランティアにご参加ください」との一文が添えられていました。
これはまたやってみようかな、という気になります。
援農ボランティア養成講座。これは一種の錬金術じゃないか
これは一種の錬金術なんじゃないでしょうか。農園をやっている人はこの労働力の手に入れ方をマネしてみてもいいんじゃないかと思います。全国の農園経営者の方はこの「援農ボランティア研修会」を活用なさったらいいと思いました。お金をもらった上で、労働力を手に入れることができますぞ。
【心臓弁膜置換術】死者蘇生の錬金術。止まった心臓が再び動き出す
詐欺みたいで心苦しいと思ったら、研修の後で、お店に出せない農作物をお土産にプレゼントしたらいいのです。私の申し込んだ農園でも収穫した作物はお土産にくれました。ただで労働力を手にいれた市会議員の心の負い目がお土産を持たせているのかもしれません。
研修、講習と称して雑用をやってもらうという「かしこい経営者」が、お金をもらった上でさらに労働力を手に入れるというすごい経営術を体験させてもらいました。
わたしは時間がたくさんあり、お金にも困っていないので、とくに不平はありませんが、お金に困っていたら騙されたと感じる人もいるかもしれませんね。
しかし「楽しい」と感じる人も一定数必ずいるはずです。土いじりが好きな人は労働でやっているのではないのです。楽しいからやっているのです。この手は今後ひろまっていくかもしれません。実際に私と一緒にボランティアしていた女性は「これからも続けたい」と言っていました。自分の狭い区画で作物をつくるのとは違った面白さが援農ボランティアにはあります。これはこの時代の新しい錬金術かもしれない。そう感じました。
3時間の農作業の後には猛烈にお腹が減っています。そして……ずっと活字やパソコンばかり見ている人間からすると肉体を使って生きることに直結する作業をするのは新鮮であり、楽しいことでした。まさにウィンウィンです。
私は毎日のようにランニングして体を鍛えていますが、ランニングでは使わない部位が筋肉痛になりました。スポーツクラブで筋肉を鍛えるのとは違った面白さが農業にはあります。
みなさんもこの一種の野外活動サークル、ソロ活の一種である営農ボランティアをやってみたらいかがでしょうか?
やめたければいつでもやめられるし、面白いと思ったら続ければいいのです。それが労働ではない趣味のいいところなのですから。
全国で援農ボランティアの人材を募集して、労働力を必要とする農家に派遣する。そんな商売もありえるかもしれない。、と可能性を感じました。