『アルジャーノンに花束を』賢くなろう好かれよう戦略の失敗

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書籍『市民ランナーという走り方(マラソン・サブスリー。グランドスラム養成講座)』。『通勤自転車からはじめるロードバイク生活』。『バックパッカー・スタイル』『海の向こうから吹いてくる風』。『帰国子女が語る第二の故郷 愛憎の韓国ソウル』『読書家が選ぶ死ぬまでに読むべき名作文学 私的世界十大小説』Amazonキンドル書籍にて発売中です。

ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』のあらすじ、感想、書評

私は「私的世界十大小説」という書物を出版しています。これ以上、自分の人生に影響をあたえるような作品はもう出てこないだろう、という確信のもとに書物を出版しているのですが、『アルジャーノンに花束を』はそのトップテンランキングに入れてもいいかと思うような名作でした。いやあ、あるものなんですね。ときどき主人公のチャーリー・ゴードンの告白を自分の告白のように読んでいる自分がいました。

あらすじは「白痴が手術で天才になり、周囲が見えると同時に嫌われ、また白痴に戻っていく」というだけのものですが、そこに描かれているテーマは「いわくいいがたし」としか言いようのないものです。うまく説明することができません。

それでもなんとか自分の感じたものを、言葉にして表現してみましょう。

『アルジャーノンに花束を』のあらすじ

主人公はチャーリイ・ゴードン。知的障害を持ちながらも、周囲の期待にこたえられる人になりたいと、頭が良くなりたいと強く願っています。もう三十台でパン屋で働いています。そこではおバカキャラの立ち位置で気にかけてもらい、愛されていました。

ある日、チャーリイは脳手術の被験者に選ばれます。同じ手術をほどこしたアルジャーノンというネズミはほかのネズミにくらべて驚異的にかしこくなっています。

おなじ手術をほどこしたチャーリイは常人の域を超え、天才といわれる領域にまで急にかしこくなります。そのことでパン屋の人間関係は、かえって悪くなってしまいました。ばかにされていたものが、ばかにするような言動をするようになったからです。

好意を寄せていた女性、アリスと、大人の関係を築こうとしますが、うまくいきません。チャーリーは知的には天才でしたが、感情の面ではまだ幼く、また人生経験そのものが欠落していたからです。アリスとの関係性に悩んだチャーリーは、彼女を自分より知的に劣った存在と扱いました。そのことで二人の関係は離れていきます。

ある日、先に手術を受けていた天才ネズミのアルジャーノンが暴力的になり、狂ったようになって、やがて死にます。チャーリーはその原因を探る研究を始めて、脳手術の効果は一時的であり、やがて知能が退行することを、みずから悟ります。そして知能が低下していきます。

アリスはチャーリーを支えようとしますが、チャーリーは迷惑をかけないように彼女から離れて、知的障害者の施設に自分から入所するのでした。

その施設をアリスは訪ねますが、チャーリーはもう彼女のことをほとんど覚えていないのでした。

『アルジャーノンに花束を』の詳細

アルジャーノンは人工的にかしこくなったりこうな白いねずみです。

チャーリー・ゴートン三十二歳。十五でウォレン養護学校に入れられる白痴。妹が生まれて母に捨てられた。

パン屋。みんなぼくのなかよしのともだちでじょーだんいったりしてわらったりする。

→『アルジャーノンに花束を』は主人公チャーリーの告白文(レポート)という体裁をとっているため、白痴時代の文章は白痴らしく書かれています。日本語の場合、やたらとひらがなをつかうなどテクニックがつかえますが、原文(英語)の場合はどうしたのでしょうか。わざとスペルミスをするなどしたと思われます。LとRを間違えるとかね。

ロビンソンクルーソーを読み終えた。これでおしまいだという。なぜだろう。

知恵の萌芽は「なぜ」からでした。ちなみに私はこの『ロビンソン・クルーソー』を私的世界十大小説にカウントしています。

人生を買うという行為だけで終わらせないために。『ロビンソン・クルーソー』

ぼくのともだちはみんなぼくのことがすきでいじわるなんかしたことないですよ。

→この認識は間違っていたことが後で判明します。世界観というものは本人の認識そのものなのです。

なぜこの人をほうっておかないの?

粉ねり機の係に昇進した。

誰かの足がいつも突き出されるのでぼくは転んでばかりいた。ぼくがころぶたびにどっと笑った。ジョウがまた押し倒した。ほんとにおかしいやつ。みんなげらげら笑った。

→知性を得たチャーリーは、自分がいじめられていたことを知ります。自我を得たチャーリーはそれが許せません。

ジョウやフランクたちがぼくを連れ歩いたのはぼくを笑いものにするためだったなんてちっとも知らなかった。ようやくわかった。ぼくははずかしい。みんながぼくを笑っていたことがわかってよかったと思う。ひとはばかな人間がみんなと同じようにできないとおかしいと思うのだろう。

利口だからってぼくをからかっていいってことはないんだ。もうみんなに笑われるのはたくさんだ。うんざりだ。とつぜんすべてが爆発した。知らないほうがよかったのかもしれない。でも知ってしまった。ぼくにはそれがたえられない。

→知性と同時に羞恥心、プライドといったものがめばえます。これを「よし」としているのか「悪し」としているのか、よくわからないのが本書の難しさなのです。

パン屋の人たちは変わってしまった。ぼくを無視するだけではない。敵意を感じる。やりきれないのは、みんながぼくに腹を立てているために前のように楽しみがなくなったことである。みんなはぼくが期待していたようにぼくを誇りにおもってはくれない……少しも。

とつぜんぼくは思い出す。母の名前がローズで、父の名前がマットだということを。妹のノーマはどうしているだろう? マットの顔をいま見てみたい。あのとき彼が何を考えていたか知りたいと思う。

ぼくをこれほどまごつかせるのは、ぼくにこういう経験が皆無だからだ。他人に対する振舞い方をひとはどうやって学ぶのだろうか? 女の扱い方を男はどうやって学ぶのだろうか? 書物はたいして役に立たない。

ジャコモ・カサノバ『回想録』世界一モテる男に学ぶ男の生き方、人生の楽しみ方

僕は一個の人間だ。メスに身をゆだねる前はぼくは他の誰かだった。ぼくはだれかを愛さなければならない。

あなたのかわりにあたしが決めることはできないわ。あなたがこれから一生子供のままでいたいというなら話しは別だけど。あなた自身で答えを見つけなきゃいけない。

ちがう。すばらしいのはあなただ。ぼくの目に手をふれて、見えるようにしてくれた。

→チャーリーは手術によって白痴から知性あふれる存在になりました。しかしこれはチャーリーだけでなく人間はみんなそうなのではないでしょうか。

私を含めてほとんどの人間は、幼い頃はサルみたいなバカなガキだったのが、勉強して賢くなっていったはずだと思います。それはつまり誰しもチャーリーのようだと言えないでしょうか?

もうあなたはあたしの知能程度を越えてしまったのよ。もしあなたが知能的に成熟したら、あたしたち、お互いに意思の疎通ができなくなるわ。情緒的に成熟したら、あたしを必要とさえしなくなるわ。

→ぶっちゃけ周囲の人間がバカに見える経験を、私はしたことがあります。あなたもありませんか?

ぼくは人間だ……男だ。本だのテープだの電気迷路なんかとばかり暮らしているわけにはいかないんだ。体の中の何かがぼくを燃えあがらさせるんだ。その何かが、あなたのことを考えさせるんだ。

→本書は「人間関係」を描いていますが、その一大要素として「セッ●ス」を描いています。私も100%同意します。

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(本文より)

カプチーノを淹れよう。きみが待っているから。
カプチーノを淹れよう。明るい陽差しの中、きみが微笑むから。
ぼくの人生のスケッチは、まだ未完成だけど。
裏の畑の麦の穂は、まだまだ蒼いままだけど。
大地に立っているこの存在を、実感していたいんだ。
カプチーノを淹れよう。きみとぼくのために。
カプチーノを淹れよう。きみの巻き毛の黒髪が四月の風に揺れるから。

「条件は変えられるけど、人は変えられない。また再び誰かを好きになるかも知れないけれど、同じ人ではないわけだよね。
前の人の短所を次の人の長所で埋めたって、前の人の長所を次の人はきっと持ちあわせてはいない。結局は違う場所に歪みがでてきて食い違う。だから人はかけがえがないんだ」

金色の波をすべるあなたは、まるで海に浮かぶ星のよう。
夕日を背に浴び、きれいな軌跡をえがいて還ってくるの。
夢みるように何度も何度も、波を泳いでわたしのもとへ。

あの北の寒い漁港で、彼はいつも思っていた。この不幸な家族に立脚して人生を切り開いてゆくのではなくて、自分という素材としてのベストな幸福を掴もう、と――だけど、そういうものから切り離された自分なんてものはありえないのだ。そのことが痛いほどよくわかった。

あの人がいたからおれがいたのだ。それを否定することはできない。

人はそんなに違っているわけじゃない。誰もが似たりよったりだ。それなのに人はかけがえがないなんてことが、どうして言えるだろう。

むしろ、こういうべきだった。

その人がどんな生き方をしたかで、まわりの人間の人生が変わる、だから人は替えがきかない、と。

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今では彼らがなんとちがって見えることだろう。そして教授連を知性ある巨人と思い込んでいた自分のなんたる愚かさよ。彼らはただの人なのだ。そして世間にそれを気づかれるのを恐れている。

セッ●スにかかわる恐怖や障害は、性的に遅れていることを示している。

→勉強のできないバカな不良がセッ●スや異性交遊を軽々とこなしているのに、インテリであればあるほどそういうことがしたいのにできない、というのはよくあることですね。

パン屋の仕事をクビになった。彼らがこれほどまでに私を憎悪するとは、私がいったい何をしたというのか?

粉ねり機の操作だとか品物の配達なんて仕事は利口な若者のすることじゃない。いまじゃみんなおまえさんを死ぬほど怖がっている。わたしも自分の家族のことを考えにゃならん。

みんなを説得させてください。みんなにわかってもらうようにしますから。

けっきょくは自分が傷つくだけだよ。

彼らにとって私が目に触れるのは耐えがたいことなのだ。私はみんなを不快にさせている。

あんたたち二人ともぼくを避けている。なぜだ?

なぜって? 言ってやろうか。なぜかっつうとな、おめえが、とつぜん、おえらいさんの、物知りの、利口ものになっちまったからよ。おめえは自分がここにいるおれたちよりえらいと思ってるんだろう? なら、どっかほかへ行きな。

→下に見ていたものが急に上になって、コンプレックスで痛いのでした。だからチャーリーを受け入れられなくなっていたのです。

おめえはいろんな思いつきだか何だかここへ持ち込んできてよ。おれたちみんなをこけにしやがった。

→たとえば職場の業務改善提案なんかもこういうののひとつですよね。たいてい周りの人を下に見ているとか、コケにしているとか思われて、提案はろくな結果になりません。黙っていた方がいいってことになりがちです。白痴時代のチャーリーのように。

友だちになってくれと頼んでいるんじゃない。ただここで働かせてくれといっているんです。

→嫌われるとスジを通した道理も通らなくなりますよね。

私を嘲笑することができる限り、私をさかなにして優越感にひたっていられる。しかし今では白痴に劣等感を感じさせられている。私のめざましい知的成長が彼らを委縮させ、彼らの無能さを際立たせているのだということが私にもわかりはじめた。私は彼らを裏切ったのであり、彼らはそのために私を憎んでいるのである。

→親はチャーリーが賢くなることを望んでいましたが、友だちは違いました。どちらの希望に沿えばいいのでしょう。それとも誰かの希望に沿うことなんて無視すべきなんでしょうか。

生まれつき目の見えない人間が、光を見る機会を与えられたようなものなんだ。それが罪深いことだなんてありえない。

アダムとイブが知恵の木の実を食べたのは悪いことだった。

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もはや言うべきことは何もない。誰一人私の目を覗き込もうとするものはいない。敵意がひしひしと感じられる。以前、彼らは私を嘲笑し、私の無知や愚鈍を軽蔑した。そしていまは私に知能や知性がそなわったゆえに私を憎んでいる。なぜだ? いったい彼らは私にどうしろというのか?

→チャーリーの告白を私が自分のもののように感じたというのは、全般に言えることですが、とくにこの告白のことです。

この知性が、私と私の愛していた人々とのあいだに楔を打ち込み、私を店から追放した。アルジャーノンを他のねずみのところに戻したら、彼らもアルジャーノンに背を向けるだろうか?

あなたは前とは違ってしまった。変ったわ。他人に対するあなたの態度よ。自分は同じ人種じゃないとでも……。口を挟まないで! 以前のあなたには何かがあった。温かさ、率直さ、思いやり、そのためにみんながあなたを好きになって、あなたをそばにおいておきたいという気になった。それが今はあなたの知性と教養のおかげですっかり変わって……。

私は黙って聞いてはいられなかった。きみは何を期待しているんだ? しっぽを振って、自分を蹴とばす足をなめる従順な犬でいろというのか? ぼくはもうこれまでずっと世間の人たちがお恵みくださっていたクツを我慢することもなくなったんだ。連中は独善的で恩着せがましくて、自分が優越感にひたって自分の無能さに安住するために僕を利用したんだ。

あなたがあんなふうに苛立たしそうな目であたしを見つめると、ああ、あなたはあたしを笑っているんだなって思うの。あたしが何かを言うと、なんだ子供っぽいことを言っているなという顔をしてあなたがいらいらしているのがわかるの。

→かしこい人あるある、だと思うんですよね。こういうの。とくに同性で自分が必死に克服、卒業した青臭い感傷をもっている奴を見ると、いらいらしちゃう(笑)。

私と一緒にいることによって苦しむのはまっぴらだというのは当然であろう。もはやわれわれに共通するものは何もない。

自分が人並みの男のように振舞えるかどうか、人生を共に過ごしてくれと頼めるかどうかを知ることが、とつぜん私にとっては重要になったのである。私はこれもしたいのだ。放出とくつろぎを得たい。

→天才になったチャーリーにとっても肉体関係は重要なのでした。当然の描写だと思います。

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ようやくわかったよ。ここにいる誰が間抜けかってことがね。このおれさ! おまえのようなやつにがまんしてるんだから。

利口になりたいという私の異常なモチベーションは人々をまず驚かすのだがそれが何から発しているのかということがようやくわかった。それはローズ・ゴードンが日夜願い続けていたことなのだ。ノーマが生まれ、彼女にも正常な子供を産めるのだと実証されると、彼女は私を造り変えようという努力をやめた。一方私は利口になりたいという気持ちを持ち続けていた。そうすれば彼女は私を愛してくれるからだ。

→チャーリーが賢くなりたかったのは、母の願いだったからです。

きみは彼に劣等感を感じさせる、彼にはそれががまんならんのだ。

ぼくは人間だ、ひとりの人間なんだ。両親も記憶も過去もあるんだ。手術室に運ばれる前だって僕は存在していたんだ!

ノーマという花が我が家の庭園に咲いた時に、私は雑草となりさがって、人に見られないところ、部屋の隅とか暗い所だけに存在することを許されたのだった。

あの子は家から遠ざけた方がいいんです。

ノーマを授かったから、あの子はもういらないってわけか!

あたしの娘をあの子のために犠牲にしたくない。

母の態度を妹が生まれる前のようにさせるのはお前の手にあまることなんだと説明してやりたいと思う。

→『アルジャーノンに花束を』は心理劇です。幻視のなかで白痴のチャーリーを天才のチャーリーが外から見たり、天才で嫌われるチャーリーを白痴のチャーリーが見つめ返して来たりしながら物語が展開します。

その包丁をしまえ!

娘の生活をめちゃくちゃにはさせないわ。

あんな子、死んだ方がましよ。このさき人並みの暮らしはぜったいできやしないんだから。

知ることが彼にとってなんだというのだ? 黙って立ち去ろう、正体を明かさずに。

私が生きているということ、私が一人前の人間であることを彼は認めねばならないのだ。彼の満足の笑みを、彼の承認を、私は欲しがっているのだ。

私は彼の息子ではない。あれは別のチャーリーだった。知能と知識は私を変えてしまった。なぜなら私の成長は彼を矮小なものにしてしまうのだから。

→母と違ってチャーリーをかばってくれた床屋の父親には最後まで正体を明かしませんでした。白痴の自分をすでに認めてくれていた父親には天才の自分を見せる必要はなかったのかもしれません。

彼女を変える努力はしないと約束した。いっしょにいるには愉快な相手だ。自由奔放な精神の持ち主である。

曲を捧げたが気に入ったようには見えない。一人の女に、自分の望むすべては期待できないという証左にすぎない。

「結婚は人生の墓場だ」は男女の脳差の断絶に絶望した者が言った言葉

アルジャーノンがフェイに嚙みついた。

実験動物を焼却炉で処理する。アルジャーノンはやめてくれ。その……もし……そのときは……つまり彼をこの中に放り込まないでもらいたい。ぼくにくれないか。ぼくが自分で始末するから。

→つくられた天才、という意味ではアルジャーノンとチャーリーは同種族だからですね。

正常な子供はすぐに成長してしまって、わたしたちを必要としなくなります。自力でやるようになって、彼らを愛していた人間、世話をしてくれた人のことなんか忘れてしまいます。でもこの子たちは、わたしたちがあたえることのできるものをすべて必要としているんですよ。

→よく成人したダウン症の子供をずっと面倒見続けている親に出会いますが、こういうことなのでしょうね。

きみは自分を何様だと思っているんだ。あんな態度をとれた義理か? わたしはこの齢になるまで、あんな我慢のならぬ無礼な態度は見たことがない。

いつからモルモットが感謝するように定められたのですか? ぼくはあんたたちに奉仕した、そしていまはあんたたちの誤りを突き止めようとしている。それがどうすりゃ借りがあるなんていえるんだ?

ぼくは発見した。誰もチャーリイ・ゴードンのことなんかどうでもいいんだとね。白痴であろうが、天才であろうが。だとしたら、どういう違いがあるっていうんですか?

→結局、かしこくなろう戦略は何の意味もありませんでした。すくなくともチャーリーにとっては……と断言できたら『アルジャーノンに花束を』の解題は簡単なのですが、そう一筋縄ではいかないところが難しいのです。

この実験はきみを人気者にするためじゃない。きみの知性を高めるために計画されたものだ。きみの人格に起こることにはなんの制御も加えなかった。きみは好ましい知的障害の若者から、傲慢で自己中心的で反社会的な手に負えないしろものになってしまった。

教授、あんたは知能は高くなっても檻の中に閉じ込めておけて、あんたが求めている名誉を獲得するのに必要ならば展示に供せられるようなやつを望んでいたってことです。障害は、ぼくが人間だったってことだ。

知識を求める心が、愛情を求める心を排除してしまうことがあまりにも多いんです。愛情をあたえたり受け入れたりする能力がなければ。

覚えるべき知識が世の中にはあまりにも多く、これを極めようとすると、友だちと遊んでいる暇なんかありません。たとえば友達のいない受験生が合格し、友だちがいっぱいの受験生が不合格になれば、生き方を考え直す人もいるでしょう。そういうところをダニエル・キイスは言いたかったのかもしれません。

ぼくの知能が低かったときは、友だちが大勢いた。今は一人もいない。ぼくに何かをしてくれようという友達はどこにもいないし、ぼくが何かをしてやろうという友達もいない。これが正しいと言えますかね。

おれ、何かまちがったこと言った?

おれ、行くところがないんだよ。だからおまえにどいていてもらいたい。おれは諦めないぞ。いかに孤独であろうが、彼らがくれたものを守って、世界のため、おまえのような人たちのために、貢献したいんだ。

→賢くなるのは悪くない、ということもちゃんと表現されています。しかし副作用、弊害の方が大きいのではないか? というのが本書の特徴です。凡百の本は「みんな学ぼう。賢くなろう」と主張しているはずです。本書の主張はとても珍しいものです。

自分がどんな人間になっていたか分かった。傲慢で、自己中心的なしろもの。チャーリイとは違って、友だちもつくれなければ、他人のことや他人の問題を考えてやることもできない。そして自分だけにしか興味を持たない。自分を見下ろして、自分がじっさいどんな人間になったかを知った。私は恥ずかしかった。

一昨日アルジャーノンが死んだ。まるで眠りながら走っているようだった。

母親にとってもっとも重要なのはいつも他人がどう思うかということ。彼女自身より家族よりまず外聞なのだ。人生には、他人がお前をどう思うかなんてことより大事なことがあるんだとときどきマットは言いきかせていた。だがそんなことを言っても無駄だった。

私が学んだすべて……マスターした言語のすべてをもってしても、ポーチに立ってこちらを見つめている彼女に向かって言えたのは「マアアアア」という一言だけだった。

→言語化する能力がどれほど大切かわかりますか? 私はマラソンの本を書いているのですが、その本には挿絵など一切登場しません。言葉のイメージ喚起力で速く走れるようになる方法という新メソッドを提唱しています。いわば言語能力の限界に挑戦しているのです。

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雑誌『ランナーズ』のライターが語るマラソンの新メソッド。ランニングフォームをつくるための脳内イメージ・言葉によって速く走れるようになるという新メソッドを本書では提唱しています。言葉のもつイメージ喚起力で、フォームが効率化・最適化して速く走れるようになる新理論。言葉による走法革命のやり方は、とくに走法が未熟な市民ランナーであればあるほど効果的です。あなたのランニングを進化させ、市民ランナーの三冠・グランドスラム(マラソン・サブスリー。100km・サブテン。富士登山競争のサミッター)を達成するのをサポートします。
●言葉の力で速くなる「動的バランス走法」「ヘルメスの靴」「アトムのジェット走法」「かかと落としを効果的に決める走法」「ハサミは両方に開かれる走法
腹圧をかける走法。呼吸の限界がスピードの限界。背の低い、太った人のように走る。
マラソンの極意「複数のフォームを使い回せ」とは?
究極の走り方「あなたの走り方は、あなたの肉体に聞け」の本当の意味は?
●【肉体宣言】生きていることのよろこびは身体をつかうことにこそある。
(本文より)
マラソンクイズ「二本の脚は円を描くコンパスのようなものです。腰を落とした方が歩幅はひろがります。腰の位置を高く保つと、必然的に歩幅は狭まります。しかし従来のマラソン本では腰高のランニングフォームをすすめています。どうして陸上コーチたちは歩幅が広くなる腰低フォームではなく、歩幅が狭くなる腰高フォームを推奨するのでしょうか?」このクイズに即答できないなら、あなたのランニングフォームには大きく改善する余地があります。
ピッチ走法には大問題があります。実は、苦しくなった時、ピッチを維持する最も効果的な方法はストライドを狭めることです。高速ピッチを刻むというのは、時としてストライドを犠牲にして成立しているのです。
・鳥が大空を舞うように、クジラが大海を泳ぐように、神からさずかった肉体でこの世界を駆けめぐることが生きがいです。神は、犬や猫にもこの世界を楽しむすべをあたえてくださいました。人間だって同じです。
・あなたはもっとも自分がインスピレーションを感じた「イメージを伝える言葉」を自分の胸に抱いて練習すればいいのです。最高の表現は「あなた」自身が見つけることです。あなたの経験に裏打ちされた、あなたの表現ほど、あなたにとってふさわしい言葉は他にありません。

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ぼくは変わった。いまじゃ正常なんだよ。わからないかい? ぼくの知能はもう低くない。白痴じゃない。みんなと同じだ。お客さんが来たときにぼくを地下室に隠さなくたっていいんだよ。何か言ってよ。

→味方だった父には正体を明かさなかったのに、養護学校に突き出した母親には正体を明かします。いや、父は気づかなかったのに、母は正体に気づきます。

自分のことを知らなくちゃならない。間に合ううちに、自分を理解しておかなくちゃならない。自分を理解しなければぼくは完全な人間にはなれないんだよ。いまぼくを助けられるのはこの世界であんただけなんだ。

これまでの歳月、悪夢はすでに十分な苦痛を与えているのだ。母が笑うのを見たかった。私が母を幸福にできる人間になったのだということを知ってもらいたかった。

→母親に認めてもらいたかったという一念は一生を支配するほど強烈でした。

歳月が妹を変えたかもしれないなどとは思いも及ばなかった。彼女はもう私の記憶の中にある自分勝手な子ではない。彼女は成長し、心の温かな、思いやりのある、情深い女になっていた。

ぜんぜん覚えてないわ。ああ、チャーリイ、あたし、あなたにそんな意地悪なことしたの?

あたしあなたが憎かった。父さんも母さんもいつだってあなたばかりかまっていたから。白痴の妹とか、うすのろゴードン一家とか。

→妹も兄を理由にいじめられていました。それゆえ兄につらく当たったのでした。

よその子たちと張り合っていくのは辛かっただろうね。

あいつをここから追い出して。自分の妹をみだらな目つきで見るなんて許せないのよ。

妹は今、なぜ私が家を出されたのか諒解した。ノーマを守ったローズを憎んではならない。彼女の見方を理解してやらなければならない。私が彼女を許さなければ、私が得るものは何もないだろう。

ぼくは自分の時間を他人と分け合う余裕はないんだ。自分のためにしか残されていないんだ。読んだり書いたり考えたりする時間が少ししか残されていないからだ。

→それほど願っても、チャーリーは後退し、やがて白痴に戻っていきます。

おそらく、あなたを訪ねることもないわね。あなたがいったんウォレンに入ってしまったら、あなたを忘れるように努めるわ。

どうしてぼくはいつも人生を窓からのぞいているのだろう。もう過去のことは思い出したくない。

みんなはぼくをかもにして、ぼくを笑いものにした。だからこそ、ぼくにとっては学ぶことが重要だったんだ。そうすれば人がぼくを好いてくれると思った。友達ができると思った。こいつはお笑いだねえ。

学べば友だちにもっと好かれるというのはまったくの無駄骨でした。

高いIQをもつよりもっと大事なことがあるのよ。

自分のことや人生のことなんかをむりやり考えさせられるようなことはなんにもしたくないんだ。ほっといてくれ。ぼくはもうぼくじゃないんだ。ぼくはばらばらに崩れていくんだ。だからきみにここにいてもらいたくないんだ。

アルジャーノンは特別なねずみでした。

チャーリイもしだれかがおまえを困らせたりだましたりしたらおれかジョウかフランクを呼べ。おれたちがかたをつけてやるからな。おまえには友だちがいるってことを忘れるなよ。ありがとうギンピイ。ともだちがいるのはいいものだな。

→天才時代は劣等感を刺激されるために嫌っていたチャーリーのことを、白痴にもどったら急に友達あつかいしてかばってくれる友人たちを、いったいどう評価すればいいのでしょうか。いいやつだ、と素直に言えません。だからといって悪い奴でもないのでしょうが……。こういうところが『アルジャーノンに花束を』の評価を難しくしています。何が正しいのか、はっきりわからないのです。作者の意図が読めません。意図を読めないようにするのが作者の意図なのかもしれませんが……。

ひとがせんせいのことをわらてもそんなにおこりんぼにならないように。そーすれば先生にわもっとたくさん友だちができるから。ひとにわらわせておけば友だちをつくるのはかんたんです。ぼくわこれからいくところで友だちをいっぱいつくるつもりです。

どうかついでがあったらにわのアルジャーノンのおはかに花束をそなえてやてください。

→何とも言えない強烈な読後感が残りました。「知性だけでは、人は幸せは得られない」ということがテーマのひとつです。感情もなければだめだし、経験もなければうまくいかない。人との関係はインテリぶるよりバカだと思われていたほうがうまくいくのかもしれません。

そして知性はやがて衰えます。チャーリーじゃなくても、人は老化によって衰えます。そのとき、人はなにを思うのでしょう。

本作の終わり方は、決してハッピーエンディングではないと思います。

しばらく時間がたったらまた読み返してみたいと思えるような心に残った一冊でした。

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『ギルガメッシュ叙事詩』にも描かれなかった、人類最古の問いに対する本当の答え

(本文より)「エンキドゥが死ぬなら、自分もいずれ死ぬのだ」

ギルガメッシュは「死を超えた永遠の命」を探し求めて旅立ちますが、結局、それを見つけることはできませんでした。

「人間は死ぬように作られている」

そんなあたりまえのことを悟って、ギルガメッシュは帰ってくるのです。

しかし私の読書の旅で見つけた答えは、ギルガメッシュとはすこし違うものでした。

なぜ人は死ななければならないのか?

その答えは、個よりも種を優先させるように遺伝子にプログラムされている、というものでした。

子供のために犠牲になる母親の愛のようなものが、なぜ人(私)は死ななければならないのかの答えでした。

エウレーカ! とうとう見つけた。そんな気がしました。わたしはずっと答えが知りたかったのです。

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