宗教としてのキリスト教の本質は「この肉体、この意識のままで復活して永遠の命を得る」こと
わたしアリクラハルトは宗教としてのキリスト教の本質は「この肉体、この意識のままで復活して永遠の命を得る」ことにあると指摘しました。しかしそれはもはや理性では理解できない信仰の問題です。
このように私はキリスト教を無条件で進行する人たちには批判的ですが、けっしてキリスト教のことが嫌いではありません。むしろどっちかというと好きなんだと思います。信者ではありませんが。
ところが「奇蹟への信仰」とは別に、キリスト教は不滅であると主張している人を見つけました。水をワインに変えたとか、死者を生き返らせたとかいうことを信じることが前提の宗教に対しては「受け入れられない」と思うのですが、この人の主張は「受け入れられる」と思いました。
その人の名前はオスカー・ワイルド。『サロメ』を書いた19世紀末のデカダン作家です。
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このブログの著者が執筆した純文学小説です。
「かけがえがないなんてことが、どうして言えるだろう。むしろ、こういうべきだった。その人がどんな生き方をしたかで、まわりの人間の人生が変わる、だから人は替えがきかない、と」
「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」
本作は小説『ツバサ』の後半部分にあたるものです。アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。
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『獄中記』どうしてキリスト教が不滅なのか? オスカーワイルドの独自理論
1859年に発行されたダーウィン『種の起源』の影響により、19世紀末はキリスト教が真実であるか、科学と宗教の相剋の時代でした。
そんな時代に書かれた『獄中記』には、どうしてキリスト教が不滅なのかが、オスカーワイルド独自の理論で書いてあります。
「この肉体、この意識のままで復活して永遠の命を得ること」が本当ならば、こんなにすばらしいことはありません。この教えのキリスト宗教が世界一の不滅の宗教であることは当然のことです。しかし「そうではなくてもキリスト教は不滅だ」というのがオスカーワイルドの主張です。
オスカー・ワイルド『獄中記』がキリスト教の秘密を解き明かす
オスカー・ワイルドは、キリストを宗教家ではなく、芸術家・詩人としてとらえました。汎神論者がすべてに神を見たように、キリストはすべてに人類を見たのです。
ワイルドによると、イエスは同情という力によって、自らに神も人も具現されていると感じました。だからイエスはそのときどきの気分に応じて、自分のことを、あるいは神の子と呼び、あるいは人の子と呼んだのです。
イエスの生涯を、憐れみと恐怖という観点から、ギリシャ悲劇以上だと見ました。シェイクスピアでさえも、キリスト受難の最後の場面には寄り付くことさえできないと感じました。
イエスの生涯は、全生涯が一編の牧歌だとワイルドは見ました。主役は絶対的に純粋で、仲間のものに付き添われるひとりのうら若き新郎です。イエスの人格には魅力がありました。イエスの衣にふれ、手にふれるものは、おのれの苦痛を忘れました。
悪しき感情もイエスが近寄れば逃げていきました。快楽の声の他、いかなる声も聞こえなかった人(聾者)も、はじめて愛の声を耳にして、その声を聞きました。
想像力に欠け、死にも等しい生活を送ってきた者も、イエスが呼ばわれば、あたかも墓から甦ったかのように立ち上がって生きていこうとしました。
イエスの愛の教えに耳を傾ける者には、粗末な食物も美味に思われ、水でさえも味よき葡萄酒の風味をもったのです。
このようにオスカー・ワイルドはイエスが起こした数々の奇跡を、リアルな奇蹟ではなく、象徴的な表現だと解釈しています。
なかなかうまい「たとえ話」だと思いませんか? ラザロの復活を、死にも等しい生活を送っていたものが、墓からよみがえったかのように生きる勇気を取り戻した、比喩だとしたのは!?
イエスは最高の個人主義者。歴史最初の個人主義者。
イエスは人の魂を「神の国」と呼び、それをあらゆる人の中に見出しました。わが身に起こることすべてが、人の身にも起こる、としたのです。その想像力で個人主義を世界に通用させてしまいました。
たいていの人間は他人の生活をしています。思想は他人の意見であり、生活は人まねであり、情熱は他からの借り物に過ぎません。イエスにとって人生とは、幼児のように単純・純粋になることでした。そうすることで自己の魂を自分のものにすることができるのです。一般的なものではなく、いつも個人的で特殊・特別なものでした。
イエスにとって富と快楽は、困窮や悲哀よりも大きな悲劇であるようにマジで感ぜられました。富によって青年の個人的だった魂は損なわれるからです。貧者に施せ、は、自らのための教条です。富と快楽に心を毒され、本当の自分を損なってしまうからです。
汝の敵をゆるせ、は自らのための教条です。愛は憎しみより美しいからです。憎しみに心が染まると結局は自分を損ねてしまうからです。
われわれを決定するのは意欲ではなく天命であるとイエスは感じていました。
イエスは最大の詩人、芸術家。
他人の生活とおのれの生活のあいだに、いささかの差異もないことをイエスは指摘しました。そうすることで個人の歴史は世界の歴史になったのです。
オスカー・ワイルドにとってナザレのイエスは芸術家でした。芸術家にとっては、表現のみが人生に考えうる唯一の様式です。そしてイエスの表現は、キャンバスや原稿用紙ではなく、人生そのものでした。
驚嘆すべき想像力で、全世界を自分の王国となし、みずからを代弁者となしたのです。そして盲者には目となり、聾者には耳となり、舌を縛られたものの叫びとなろうと努めました。言葉を出しえぬ人々のために、天に向かって呼びかける喇叭たらんとしたのでした。
イエスの宗教活動が、オスカー・ワイルドの手にかかるとこのように芸術・創作活動になってしまいます。
芸術的な本性をもって、イエスがわれとわが身で成し遂げたことがあります。それが最後の受難でした。美の概念である苦痛と悲哀を、自らの想像から自分自身として創造したのが十字架の上の最期だとワイルドはいいます。
この成就によってイエスは芸術を魅惑し支配しました。いにしえの神アポロンよりも、アテナよりも、デメテルよりもゼウスよりもイエスは神秘、奇異、哀憐、暗示、法悦、愛……人生を彩るあらゆる要素をイエスはそなえています。だからイエスの生涯は芸術作品のごときものだとオスカー・ワイルドはいうのです。さまざまなものや人物をキリストに負うている。あらゆる芸術の中にキリストがいて、キリストの魂がある。われわれのために完全に人生を要約してくれた。イエスの人生には他の追従をゆるさないものがある。
その死を象徴的、神秘的に演出することが教会の最高の職務だとオスカー・ワイルドはいいます。イエス脚本の芝居を上演し続けることが教会の仕事だというわけです。
キリストの魅力。人を変えようとしたのではなく、周囲の人が変わってしまった。
イエスが行ったとされる宗教的な行為、人びとの改革、苦悩の救済も、イエスは何かを教えようとしたわけではなく、人びとがイエスの面前に出てみると、人はその影響により勝手に何者かに変わってしまったとワイルドは理解しました。
イエスは盗人を退屈な律義者に転向させようとしたわけではありません。むしろ子供の心のままにしようとしたのでした。ただ盗人の方がイエスの影響で変わってしまったのです。
オスカー・ワイルドにとってイエスは満身これ想像でできた人でした。そしてこの世界も同じ本質で成り立っています。
愛こそ賢き者の探し求めている世界の第一の秘密であり、愛を通じてのみ神の足元に近づきうることをイエスは知っていました。
イエスは救世主というものを想像力で理解しました。だから救世主のごとくになったのです。詩人の魂と乞食の肉体で、救世主という芝居を演じきれると思ったのでした。
「人間が芸術を欲する限り、最高傑作であるイエスの生涯は、決して滅ぶことはない」
ワイルドは芸術作品をつくることよりも、自分の人生そのものが芸術作品であるかのように生きようとしました。イエスも自分と同じだと見たのでしょう。イエスは一編の芸術作品も残しませんでした。しかし彼の生涯が至上の芸術作品でした。
「人間が芸術を欲する限り、最高傑作であるイエスの生涯は、決して滅ぶことはない」とオスカー・ワイルドは主張したのです。
ワイルドはイエスを宗教家としてではなく、詩人の作品として理解しました。異教徒の私でもその解釈ならば納得することができます。
イエスの肉体が残した生涯・思想は、史上最高の芸術作品として永遠の命を得たということです。
なぜキリスト教が世界一信者が多い宗教であるのか、その謎が知りたい人を納得させることのできる理論だなあと思いました。
誰しもいつかはイエスの面前にいづべき運命を持っています。
聖書、読んでみませんか?
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このブログの著者が執筆した「なぜ生きるのか? 何のために生きるのか?」を追求した純文学小説です。
「きみが望むならあげるよ。海の底の珊瑚の白い花束を。ぼくのからだの一部だけど、きみが欲しいならあげる。」
「金色の波をすべるあなたは、まるで海に浮かぶ星のよう。夕日を背に浴び、きれいな軌跡をえがいて還ってくるの。夢みるように何度も何度も、波を泳いでわたしのもとへ。」
※本作は小説『ツバサ』の前編部分に相当するものです。
アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。
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