直木賞作家がオウム真理教のことを書いた作品
きっかけは「復讐するは我にあり」という映画でした。緒形拳、倍賞美津子、三国連太郎などが名演技を見せる殺人犯の逃避行を描いた映画です。
この「復讐するは我にあり」の原作者が佐木隆三さんです。この作品で直木賞を受賞されています。
直木賞作家がオウム真理教のことについて書いた本が本書「慟哭・林郁夫裁判」です。
ちなみに芥川賞作家がオウム真理教のことについて書いた本は「アンダーグラウンド」村上春樹さんが書いています。
直木賞作家も、芥川賞作家も無視できなかった大事件が「オウム真理教」事件だったということでしょう。
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このブログの著者が執筆した「なぜ生きるのか? 何のために生きるのか?」を追求した純文学小説です。
「きみが望むならあげるよ。海の底の珊瑚の白い花束を。ぼくのからだの一部だけど、きみが欲しいならあげる。」
「金色の波をすべるあなたは、まるで海に浮かぶ星のよう。夕日を背に浴び、きれいな軌跡をえがいて還ってくるの。夢みるように何度も何度も、波を泳いでわたしのもとへ。」
※本作は小説『ツバサ』の前編部分に相当するものです。
アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。
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「裁判傍聴業」とは何だ?
本書を読んで私がもっとも面白いなあ、と思ったのが、佐木さんが自分のことを「作家」と呼ばず「裁判傍聴業」と呼んでいるところです。はあちゅうさんみたいなブロガーが「作家」を名乗っているのに、直木賞受賞者が作家を名乗らず裁判傍聴業って(笑)。
よっぽど足しげく傍聴したんでしょうね。佐木さんはオウムだけではなく、「海燕ジョーの奇跡」など映画化された作品や、宮崎勤をはじめとする多くの殺人事件の裁判を傍聴し、数々のノンフィクション・ルポルタージュをものにしています。
ところで「裁判傍聴業」ですが、もちろんそれで収入は得られません。本を書くとか、YouTubeで集客するとかしてはじめてお金になるのが傍聴です。佐木さんの場合は、後年、やたらと裁判の傍聴から起稿したノンフィクションを刊行していたので、「元ネタが他人の事件」だということを自分を卑下してそう自称しただけでしょう。ちなみにこの「元ネタが自分の体験」だった場合のことを「私小説」「文学」と呼びます。
さて裁判の傍聴には特別な資格などは必要なく、だれでも傍聴することができるそうです。別に予約の必要もないので、いきなり当該裁判所に行って、開廷表で裁判内容を確認して、希望する法廷の傍聴席に腰かけるだけです。
大半の裁判傍聴はこの手順だそうです。傍聴人がほとんどいない裁判もあるそうです。
でもやっぱり聞きたいのはオウム真理教事件など抽選が行われるような注目事件じゃないですか。あるいはドロドロした離婚劇とも思ったのですが、家庭裁判所や簡易裁判所などで扱う非公開の事件(離婚調停とか)は傍聴することができないそうです。
オウム真理教のような注目事件は抽選になることが多いことが予想されます。その場合、傍聴券交付手続が行われます。大学の合格発表のようなコンピューター抽選の結果が掲示板にしめされるそうです。
よくテレビでは有名人の裁判が撮影禁止のために絵師を傍聴させて似顔絵を書かせています。もちろん絵師は自分で並んでいるわけではなく、傍聴券をゲットするための「並ぶバイト」というものがあるのです。テレビ局などはバイトを雇って関係者を滑り込ませる手をとっています。日当二千円ぐらいで、傍聴券をゲットできなくても、時給は支払われる契約ですが、傍聴券をゲットできた場合、その券を絵師や記者、関係者に譲ることになるので「特別ボーナス」が支給されて日当一万円ぐらいになるそうです。
こういう傍聴券が、直木賞作家の手に渡ったというわけですね。ちなみに過去最高に傍聴券の人気が高かったのは、やはりオウム真理教麻原彰晃の事件だそうです。
西洋には「ヘロストラトスの名声」という言葉があるそうです。ギザの三大ピラミッド以上に見事だったという人もいた古代世界七不思議のひとつアルテミスの神殿を、自分の名前を永遠のものにするために火をかけて破壊した人物のことです。
麻原彰晃という人物は、彼に関わった裁判官や、検事や、警察や、被害者や、彼の死刑に署名した法務大臣や、関係者みんなが時の流れの中で忘れ去られても、ヘロストラトスのように歴史に名前を残す人物ではないかと思います。
迷惑系ユーチューバーは「ヘロストラトスの名声」アルテミスの神殿・放火消失事件
「慟哭の法廷」たったひとり死刑にならず無期懲役になった男
ところで『慟哭』の内容ですが、オウム真理教には、カルトの魅力が満載だということがよくわかりました。
信者がお互いを菩薩や羅漢のインド名に由来したホーリーネームで呼び合います。外務省とか大蔵省とかいった国家組織にも似た省庁制の役職の他に、正大師、正悟師といった宗教上の階級をもち、ワークと呼ばれるその場限りの連携で業務を行っていました。ただの行為が「ポア」とか「血のイニシエーション」とかいった別名で呼ばれて謎めいていました。そういうところが一部の人々を惹きつけたのだと思います。
医師の林郁夫は「ニューナルコ」という人を都合よく記憶喪失にさせる行為(決して医療行為ではない)を信者に行ったうえに、地下鉄サリン事件の実行犯となりました。
現在、教祖麻原彰晃はじめ地下鉄サリン事件の実行犯は絞首刑にされているのですが、林郁夫だけは無期懲役で死刑になりませんでした。
いちはやく教祖の洗脳から解かれて自供したことが「自首」と認められ事件の全容解明に多大な貢献をしたことが評価されたからです。
また「慟哭の法廷」と呼ばれた林の反省・苦悩する姿が、遺族をして「死刑をのぞまない」と評価されたことで、無期懲役となり死刑求刑をまぬがれたからでした。
林は心臓外科の名医だったそうですが医師免許をはく奪され、無期懲役囚として現在も服役中です。
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このブログの著者が執筆した純文学小説です。
「かけがえがないなんてことが、どうして言えるだろう。むしろ、こういうべきだった。その人がどんな生き方をしたかで、まわりの人間の人生が変わる、だから人は替えがきかない、と」
「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」
本作は小説『ツバサ』の後半部分にあたるものです。アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。
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