9月19日から22日まで、敬老の日と秋分の日で四連休となったので、さっそく車中泊の旅に出かけることにした。
移住先を探す旅である。私はアパート暮らしなので、何も終生そこに住む必要はないのだ。
まだ残暑厳しいので、移住先として最も人気のある県、長野県を中心にめぐることにした。
もちろん標高による避暑効果を期待してのことである。
鹿島槍黒沢高原
八方尾根をリフトに乗って八方池まで散策しようと思っていたのだが、リフト前のあまりの登山者の多さに断念した。
しかしせっかくの北アルプスである。どこかを歩きたいと思っていたところ「鹿島槍黒沢高原」の眺望がいいという情報があったので、そこを歩いてみることにした。
サンアルピナ鹿島槍スキー場まで車で上がって登山道入り口を探すが全然わからない。
スキー場の受付で入り口を聞くと、駐車場入り口にある何の変哲もないアスファルト林道が、鹿島槍黒沢高原の入り口らしい。
林道を散歩する。どこからか不整地に登山道に入るかと思いつつしばらく歩くが、さにあらず、ひたすらアスファルトの林道が続く。
これが山道ならば木の根の道あり岩あり階段ありで、足の置き場を探して飽きが来ないのだが、ずっとアスファルト林道では、さすがに長く歩いていると飽きてしまう。
こんな林道だったらなにも歩かずとも車でも通れそうだ。入り口には「林業用車専用。一般車通行不可」と書かれていたが、歩いている間に何台も自家用車やオートバイが通った。
林道散歩に飽きたので、とうとう私とイロハは「例の遊び」をやることにした。
このページではその遊びをご紹介したい。
ご紹介するのはララムリ族のララヒッパリである。
いや、私たちはこれを「栗引っ張り」もしくは「栗ケット」と呼んでいる。
ララムリ族のララヒッパリ(タラウマラ族のララジパリ)とは何か?
メキシコ山岳地帯のララムリ族(タラウマラ族)のランニングゲーム、ララヒッパリ(ララジパリ)を知っているだろうか?
ララヒッパリとは二人一組でチームを組み、ソフトボール大の木の丸いボールを蹴りながら、チーム戦で、どちらが長い距離を走れるかを競うゲームである。
これにヒントを得て、私たちはときどき「お手軽ララヒッパリ」を行う。
ソフトボール大の木の玉なんてないので、丸くて転がる木の実などをボールに蹴りながら散歩するのである。
転がるものならば石でもいいのだが、転がるほど摩耗した石なんて滅多にない。
木の実がボールになることがほとんどである。
木の実もいろいろで、何度も蹴られることに耐えられない実もあるから注意が必要だ。
いちばん適当なのは栗の実である。何度蹴っても崩れないし、適当なところで転がりが止まるので、崖下まで転がり落ちたりすることが少ないからだ。
この栗の実に敬意を表して、このララヒッパリをクリヒッパリ(栗引っ張り)と私たちは呼んでいる。
別名、クリケット(栗蹴っと)ともいう。
まあそこが林道である限り、スペアのボールはいくらでも見つかる。
私たちも林道の崖下に何度も蹴り落としてボール(木の実)をロストしてしまった。
しかし樹木というのはこのようにして生息範囲をひろげていくものなのだ。
むしろ木の実としても蹴り散らかされて本望だろう。
クリケット(クリヒッパリ)は遊びから偶然生まれた競技
ちょうど足を置く場所に栗の実が落ちていたので、蹴ったことがクリケット(クリヒッパリ)ごっこのはじまりだった。
おおっ。これは名著『Born to run』で走る民族ララムリが遊ぶというララヒッパリそのものではないか。
ララピッパリというのは、ララムリ族の民族の遊びである。二人一組となって、ソフトボール大の木のボールを蹴りながら、どちらの組がたくさん距離を走ったか競争するのだ。ララムリは木の丸いボールを蹴るのだが、私たちは栗を蹴った。
万が一、蹴り損ねて崖下に落ちてしまっても、次のボール(栗)はいくらでもある。また栗はあまり遠くまで転がらないために、次のキックが近く、散歩に向いている。
これが走るゲームとなると、もっと遠くまで蹴ることができるボールでないと実用的ではない。遠くまで蹴れないといちいち蹴るごとにランニングが止まってしまうのだ。
そういう意味ではクリケット(クリヒッパリ)は、散歩競技だと言える。
なるほど足を高く蹴り上げるために腸腰筋が鍛えられる。ドリブルとは違って狙いをすませて遠くまで蹴る。そして歩く。蹴る→歩く、を繰り返す。
これを競争しながら走るのはかなりきつかろう。
メキシコの走る民族が、走りながらボールを蹴るというのは、なるほど相当体が鍛えられるはずだ。
幼い頃から、競い合って、蹴りながらララピッパリを走ったら、走る民族が完成する。
しかしそんなハードな競技を私たちはするつもりはない。
退屈な散歩を紛らわせるだけでじゅうぶんだ。
クリヒッパリをしながら歩きだしたら、林道の散歩が俄然楽しくなった。
もはや周囲の風景はあまり見ていない。蹴った栗のゆくえばかり目で追っていた。
そしてあっという間に目的地まで着いてしまった。
なんだ、もう林道が終わってしまった。
私は少し残念だった。
もうすこしクリケットをやりたかった。
そう思ったのである。
クリヒッパリをやるまでは、林道散歩に退屈していたことをすっかり忘れて夢中になっていた。