自分の故郷に観光バスで行くバカはいない
私がツアー旅行者であることをやめて、宿は現地で飛び込む放浪の旅人になったきっかけは韓国でした。
当時つきあっていた女性がどうしても韓国に旅行に行きたいと言い出しました。私はあまり行きたいと思わなかったのですが、彼女が韓国好きで、しかたなく一緒に行くことになりました。
私は韓国帰りの帰国子女です。およそメジャーな観光地で行ったことのない場所はありません。韓国にいまさら観光旅行という気分ではありませんでした。どちらかというと「里帰り」です。彼女をガイドするような気持ちでした。
そんな私がツアー旅行に申し込めると思います? 韓国にツアーで旅行に行くなんて絶対にいやでした。自分の故郷に観光バスで行く人はいないでしょ?
ソウル日本人学校の偏差値レベルと韓国語。卒業生の進路。公立? 私立?
宿予約なし。放浪旅のスタート
そういうわけで韓国には個人旅行で行くことにしました。具体的には往復の航空券のチケットだけを購入して、あとは現地の人とまったく同じように行き当たりばったりで旅することにしたのです。電車やバスを使って移動するつもりでした。
ホテルの予約もありませんでした。ホテルはラブホテルを当てにしていました。国内でもラブホテルは意外と穴場だったりします。家族連れはラブホテルには泊まりませんので、シティホテルがいっぱいでもラブホテルは空いていたりするのです。
そういうわけで韓国では安っぽいラブホテルにとまったのですが……いや、まいりました。ここでは2パターンの韓国安宿事情について実体験でお伝えします。
下は酷暑、上は極寒。恐怖のサンドイッチ。蒸し焼きラブホテル
韓国に行ったのは真冬でした。おそろしく寒い旅行になりました。子どもの頃、耳の先が千切れそうに痛かったことをひさしぶりに思い出しました。あまりに寒いと耳先が赤くなって痛くなるのです。
温泉マークの旅館(ラブホテル)は、比較的簡単に見つかりました。今夜の宿が見つかって一安心しました。
ところが部屋にエアコンがありませんでした。かなり安いところに泊ったので仕方がありません。しかしベッドの下がオンドル式で温められていて寝るのにはまったく寒くありませんでした。
オンドルというのは、床暖房みたいなものです。ホットカーペットがベッド下に敷いてあると思ってください。こいつか高温だったので寝るのにまったく寒くはありませんでした。
ところが問題がありました。このオンドルの温度調節ができないのです。最初はあたたかくていいと高評価だったオンドルが、やがて熱くてたまらなくなりました。まるでフライパンの上にいるかのようです。
あまりに熱いので体の下に毛布を敷くと、今度は上が寒くてたまりません。エアコンが効いていませんので。
下は酷暑、上は極寒という恐怖のサンドイッチでした。蒸し焼きのようになって朝をむかえました。
あのような睡眠体験をしたのははじめてでした。
女を抱いて眠りなよ。という合理的なラブホテル
ほうほうのていで「蒸し焼きラブホテル」をひきはらって、翌日は別のラブホテルに泊まりました。やはり個人経営みたいな格安ラブホテルです。
このラブホ、暖房はあるのですが、あまり効いていません。またもや寒い夜になってしまいました。そもそも掛布団が一枚しかないのです。真冬だっていうのに。
もう一枚毛布があれば快適に眠れそうです。あまりに寒くて、フロントのおっちゃんに毛布をもらいに行きました。
すると「何だよ。女連れだろ、抱きあって眠れよ」というおっちゃん。おれを抱きしめて「抱けば暖かい」というゼスチャーです。
「いやいやいや。布団くれよー。寒いんだよー」
というオレ。もちろんゼスチャーです。
でもぜんぜん通じました。
韓国語で何いってるかさっぱりだったけど、女を抱いて眠れば寒くないだろ、といったのが、ゼスチャーでよくわかりました。
じゃあ彼女を抱いて寝ることにします——じゃねえ!!
布団くれ。布団!! それで問題解決なんだよ!!