親日なんだか、反日なんだか
ある国際空港でのことです。私たち夫婦はイミグレーションで並んでいました。かなりの行列でした。
そこで知らないうちに、うちの妻が手袋を落としたようなのです。それにまったく気づきませんでした。
ところが後ろに並んでいた韓国人のおばさんが落とし物を拾い上げてくれたのです。
「はいよ。チョッパル」
妻の肩をとんとん後ろから叩いて、そういって手袋を渡してくれたのです。
なんて親切な人なんでしょう……じゃねえ!! チョッパルってなんだ!?
チョッパルというのは豚の足のこと。草履をはいた日本人への蔑称
「いま、チョッパルっていった~~」
うちの妻は泣きそうな顔でこっそりと私に耳打ちしました。
「カムサハムニダ」
普通ならそういうところですが、そうはいきません。
チョッパルというのは豚の足のこと。草履をはいた日本人への蔑称なのです。
「ヤイシ。ケーセッキ!(この犬野郎!)」みたいなものです。豚の足野郎!
なんだと、このやろう!!!
といいたいところですが、親切に落とし物を拾ってくれたことに変わりはありません。
小さくお辞儀してその場はやり過ごしました。
親日なんだか半日なんだかよくわからない韓国人アジュンマの話しでした。このイーセッキヤー!!!
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旅人が気に入った場所を「第二の故郷のような気がする」と言ったりしますが、私にとってそれは韓国ソウルです。帰国子女として人格形成期をソウルで過ごした私は、自分を運命づけた数々の出来事と韓国ソウルを切り離して考えることができません。無関係になれないのならば、いっそ真正面から取り組んでやれ、と思ったのが本書を出版する動機です。私の第二の故郷、韓国ソウルに対する感情は単純に好きというだけではありません。だからといって嫌いというわけでもなく……たとえて言えば「無視したいけど、無視できない気になる女」みたいな感情を韓国にはもっています。
【本書の内容】
●ソウル日本人学校の学力レベルと卒業生の進路。韓国語習得
●関東大震災直後の朝鮮人虐殺事件
●僕は在日韓国人です。ナヌン・キョッポニダ。生涯忘れられない言葉
●日本人にとって韓国語はどれほど習得しやすい言語か
●『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』南北統一・新韓国は核ミサイルを手放すだろうか?
●韓国人が日本を邪魔だと思うのは地政学上、ある程度やむをえないと理解してあげる
●日本海も東海もダメ。あたりさわりのない海の名前に変えたらいいじゃないか
●天皇制にこそ、ウリジナルを主張すればいいのに
●もしも韓国に妹がいるならオッパと呼んでほしい
●「失われた時を求めて」プルースト効果を感じる地上唯一の場所
●韓国帰りの帰国子女の人生論「トウガラシ実存主義」人間の歌を歌え
韓国がえりの帰国子女だからこそ書けた「ほかの人には書けないこと」が本書にはたくさん書いてあります。私の韓国に対する思いは、たとえていえば「面倒見のよすぎる親を煙たく思う子供の心境」に近いものがあります。感謝はしているんだけどあまり近づきたくない。愛情はあるけど好きじゃないというような、複雑な思いを描くのです。
「近くて遠い国」ではなく「近くて近い国」韓国ソウルを、ソウル日本人学校出身の帰国子女が語り尽くします。
帰国子女は、第二の故郷に対してどのような心の決着をつけたのでしょうか。最後にどんな人生観にたどり着いたのでしょうか。
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