医者への心づけ。袖の下は正しいか?

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手術の前に、ワイロのように医者に金を渡すシーンを映画やドラマなどでよく見かける。

こういう正規の診療費以外に医者に渡すお金のことを医者への「袖の下」「心づけ」とか呼んだりする。

これは普通のことなのだろうか。そうするのが常識なのだろうか。

それを検証してみたい。

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医者への謝礼、袖の下、心づけは正しいことか?

ウチの父が手術を受けることになった。大動脈弁置換術という大手術である。

大動脈弁狭窄症。死んだ人間が生き返る? 魔法の手術
大動脈弁狭窄症ではいったん心臓を止めて、術後、また心臓を動かすと聞きました。これって死者蘇生? 止まった心臓が再び動き出す謎について医者のサイトよりも詳しく説明します。

その際、ウチの老親がドラマで見たような謝礼を渡そうとしているのを、患者の長男の立場で見てしまってちょっと驚いた。複雑な感情が沸き起こった。

実際のところ、手術の内容を知れば知るほど、担当医師に謝礼を渡そうという老親の気持ちはわからないでもない。いや、よくわかる。

まず命の危険がある大手術だということだ。いったん心臓を止めて、手術後に蘇生させようというのだから。

死者蘇生の錬金術
「どうして止まった心臓が再び動き出すのか?」「死者蘇生の錬金術を現代医学は手に入れたのですか?」 医者に聞きたいことは、これのみである。死者は蘇生しないが、心臓は蘇生する。

患者側としては「最善を尽くしてお願いしたい」ところである。

どうか、どうかと手をすり合わせて、神にもすがる気持ちだ。

謝礼なんてあたりまえ、という気にもなる。それが人間だ。神仏の前にお供え物をするのと同じである。

会社の上司に贈る、お歳暮、お中元みたいなものだ。感覚的には会社の上司よりももっともっとお世話になるのだ。なにせ本当に命をあずけるのだから。

会社の上司にお歳暮を贈るのに、どうしてお医者様にお歳暮を贈らないということがあろうか。

5時間以上にわたる命の大手術である。普通の人の生涯の中で一度もこれほどの大事業を成し遂げることはないかもしれないほどのことを「やっていただく」のだ。

その大事業に患者が払う費用は約6万円ぽっちだそうだ。もちろん健康保険のおかげなのだが。

「私の命の価値は6万円ぽっちじゃありません」と大声で主張したくもなる。

これがアメリカなど自費医療費の国だったら、手術費何百万円もかかるだろう。

老親の気持ちはわかる。しかし…とバックパッカーの長男は思うのであった。

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二重価格を容認しないバックパッカースタイル

私はバックパッカーとして諸国を旅してきた。発展途上国には外国人価格というものがあって、市場でもタクシーでも外国人だと見れば「ボッタクリ」をしてくる。

日本は物価が高いため、ぼったくられても日本の相場よりは安い。だから相手の言いなりにそのまま支払ってしまう旅人がいるが、私は基本的に現地の人と同じ価格で払うことを原則にしていた。

ボッタクリを容認しなかった。金持ちだから高額で、貧乏人には低額で、という二重価格を容認しなかった。

それを容認すると、いい商品は外国人に、不良品は国内人にという流れをまず作ることになる。

いかに貧乏バックパッカーとはいえ、カンボジアの貧民から見ればお金持ちには違いない。

ある商品があって私が商人だったら、外人に高く買ってもらいたい。これまで同様の安い価格で同国人に売りたくない。やむをえず同邦人に売るとしても、すこしでも外国人価格に近付けようとするだろう。

みんながみんなそうやったらどうなるのか?

このように旅人が二重価格を容認すると、現地の価格を吊り上げることになる。

小さなことに思えるかもしれないが、最終的には「外国人は上客、自国民は下客」「お金を持っている人だけが歓迎される人」という哲学に行きつく。

彼らの生き方のスタイルを変えてしまう。ひらたくいうと悪の手助けをすることになるのだ。

そう思ってボッタクリを容認しない旅をしてきた。

そのことを老親が医者に心づけを渡そうとしている姿を見て思い出してしまったのだ。

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医者への袖の下の習慣はいまだに残っているのだろうか?

心づけを渡したい気持ちはわかるが、そもそも執刀医がそれを受け取るだろうか。

手術前の説明に、前夜を過ごす病室で、執刀医から明日の術式の説明があった。

そこに長男である私が呼ばれた。執刀医の説明は堂々としたものであり、こちらの不安を消してくれるものであった。

もし心づけを渡すのであれば、命が助かってから神仏に祈る人がいないように(喉元過ぎれば熱さを忘れる)手術の前の今がタイミングである。

しかし執刀医がもし心づけを受け取るつもりがあるならば、モノカキの長男なんて病室に呼んだりしないはずだ。老親だけと話した方が都合がいいはずである。振り込め詐欺の手法と同じことだ。老親だけを相手にするはず。

それをあえて息子を呼ぶということは、袖の下を受け取る気なんかないということではないか?

しかもそこに大学病院の研修生が同席した。もちろん研修医の勉強のためだが、袖の下を人前で受け取る者はいないのだから、病院側としても心づけを受け取る習慣とはきっぱりと決別しているということではないのか。

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医者の堕落に手を貸すことにならないか?

さらにいれば袖の下を渡すことは、医者の堕落に手を貸すことにならないのか?

医者に受け取る気はなくても、自分よりもはるかに年長の人生の先輩(患者)からポケットの中にぐいぐい封筒を押し込まれたら後輩として拒絶できない場合もあるだろう。

しかしそういうことを続けると人間は確実に堕落する。

「なんだ、この患者は袖の下ナシか」

と心の奥底でガッカリするようになり、彼の堕落がはじまる。

そしていつか「謝礼ですか? 他の患者はフツーは払いますよ」と臆面もなく患者の前で言うことができるようになるのだ。

発展途上国のタクシー運転手もそういう経路をたどってボッタクリタクシーになるのである。

ちょっと吹っ掛けたらその通りに払うお金持ちの外国人がいて、それに味を占めて、やがてボッタクリが習慣になるのだ。

余計に払うやつがいるから、価格が吊り上がるのだ。

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貧乏人に対して不利益を与えることにならないか?

さらにいえば袖の下を渡すことは、貧乏人に対して不利益を与えることにはならないだろうか。

旅人が二重価格を容認して現地価格を吊り上げることは、あきらかに現地住民に不利益を与える。

心づけとして現金をもらった患者にも、何ももらっていない患者にも、等しく全力を尽くして治療にあたるとしたら、受け取った現金の意味は何だろう。

そういうことを医者は考えないであろうか。

現ナマをポケットに突っ込んだ患者の必死な思いに、医者はどうやって応えればいいのだろう?

自己ベストの治療水準が変わらない以上、お金をもらった分の差をつけるためには、心づけのない人への治療水準を落とすしか方法がないのではないだろうか?

ブログで言えば「無料の方はここまでしか読めません、これ以上の記事が読みたい人は有料サイトへ登録してください」というようなものだ。朝日新聞デジタルなどがこの手法でやっている。記事のベスト水準が変わらない以上、有料と無料の差をつけるには、無料記事の質を落とすしか方法はない。

医者は聖者ではない。医者になるために奨学金や借金など莫大な学費を払って人生の収支をマイナスからスタートした人たちだ。たくさんお金を稼いで、膨大な学費を支払い、それからやっと人生の収支がプラスになる人たちだ。

心づけのない人の治療に手を抜くことにならなければいいが、そうならないとも限らないではないか。

その恐れはますます心づけの習慣を助長することになる。誰もがこぞって医者にワイロを渡すようになる。命を金で買えるかのような錯覚におちいる。

誰かがキッパリとやめなければ。

旅人全員がボッタクリを容認したら、私だってボッタクリ価格で支払わざるを得ない。対抗するすべはない。二重価格を容認しない仲間が他にもいるから闘うことができるのだ。

ウチの老親に、世の風紀を乱す側にまわっているという意識は全然ない。

命を助けてくれる人にお礼をするのは当たり前だというシンプルな感覚があるだけである。

気持ちはわかる。罪もない。ただ心に誠実なだけだ。

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公立病院の医師は公務員。収賄罪、脱税に問われてもおかしくない

さらにいえば公立病院なら医師は公務員である。

袖の下を受け取ったら収賄で訴えられてもおかしくない。

医者への「袖の下」「心づけ」の習慣を考えてきたが、私立病院では許されて、公立病院では許されない習慣というのは、やっぱりおかしいのではないだろうか。同じ医者に対して失礼だと思う。

袖の下の習慣は私立病院を金まみれにすることに加担する。意識せずとも悪に加担している。

中世の教会では「免罪符」というものが売られていた。免罪符を売る方が悪いのか? いいや。買う方が悪いのである。そういうものを欲しがる庶民がいたから教会が心の弱さに付け込んだのだ。

動物の毛皮を売る方が悪いのか? 需要がなければだれもむやみに動物を殺したりはしない。やはり買う方が悪いのだ。象牙なんか買うやつが悪い。

もちろん「袖の下」は誰にも言えない裏金だから、脱税にだってなりうるはずである。脱税の罪は公立病院でも私立病院でも関係ない。

さらには心臓弁膜置換手術は大手術のため、総勢6人体制で行うという。それを執刀医(主担当)にだけ袖の下を渡すのはどうなのか。全員に渡さなければ、手術中に賄賂をもらえなかった人だけが、心を捻じ曲げてアカンことをしないとも限らないではないか。

さて、いろいろな問題があることがわかった。

二重価格を容認せず闘ってきたバックパッカーとしては「袖の下なんかやめとけ」といいたいのだが、おれだって命の大手術に対して謝礼ぐらい当然という感覚はわかる。

書いてきて手塚治虫『ブラックジャック』がむしょうに読みたくなった。このテーマは医者でもあった手塚先生が書き尽くしている。

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結局、命は金じゃ買えないってことなんだろう。

サハラ砂漠で大ジャンプする著者
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このブログ著者の小説『結婚』
小説『結婚』
愛とは何か? 結婚とは何か? を追求した純文学小説です。 主人公ツバサは劇団の役者です。恋人のアスカはツバサのもとを去っていきます。 「離れたくない。離れたくない。何もかもが消えて、叫びだけが残った。  離れたくない。その叫びだけが残った。  全身が叫びそのものになる。おれは叫びだ」 劇団の主宰者であるキリヤに呼び出されて、離婚話を聞かされます。不倫の子として父を知らずに育ったツバサは、キリヤの妻マリアの不倫の話しに、自分の生い立ちを重ねます。 「どんな喜びも苦難も、どんなに緻密に予測、計算しても思いもかけない事態へと流れていく。喜びも未知、苦しみも未知、でも冒険に向かう同行者がワクワクしてくれたら、おれも楽しく足どりも軽くなるけれど、未知なる苦難、苦境のことばかり思案して不安がり警戒されてしまったら、なんだかおれまでその冒険に向かうよろこびや楽しさを見失ってしまいそうになる……冒険でなければ博打といってもいい。愛は博打だ。人生も」 ツバサの母は心を病んで自殺してしまっていました。 「私にとって愛とは、一緒に歩んでいってほしいという欲があるかないか」 ツバサはミカコから思いを寄せられます。しかし「結婚が誰を幸せにしただろうか?」とツバサは感じています。 「不倫って感情を使いまわしができるから。こっちで足りないものをあっちで、あっちで満たされないものをこっちで補うというカラクリだから、判断が狂うんだよね。それが不倫マジックのタネあかし」 「愛する人とともに歩んでいくことでひろがっていく自分の中の可能性って、決してひとりでは辿りつけない境地だと思うの。守る人がいるうれしさ、守られている安心感、自信。妥協することの意味、共同生活のぶつかり合い、でも逆にそれを楽しもうという姿勢、つかず離れずに……それを一つ屋根の下で行う楽しさ。全く違う人間同士が一緒に人生を作っていく面白味。束縛し合わないで時間を共有したい……けれどこうしたことも相手が同じように思っていないと実現できない」 尊敬する作家、ミナトセイイチロウの影響を受けてツバサは劇団で上演する脚本を書きあげましたが、芝居は失敗してしまいました。 引退するキリヤから一人の友人を紹介されます。なんとその友人はミナトでした。 そこにアスカが妊娠したという情報が伝わってきました。 それは誰の子なのでしょうか? 真実は藪の中。証言が食い違います。誰かが嘘をついているはずです。認識しているツバサ自信が狂っていなければ、の話しですが……。 「妻のことが信頼できない。そうなったら『事実』は関係ないんだ」 そう言ったキリヤの言葉を思い出し、ツバサは真実は何かではなく、自分が何を信じるのか、を選びます。 アスカのお腹の中の子は、昔の自分だと感じていました。 死に際のミナトからツバサは病院に呼び出されます。そして途中までしか書いていない最後の原稿を託されます。ミナトの最後の小説を舞台上にアレンジしたものをツバサは上演します。客席にはミナトが、アスカが、ミカコが見てくれていました。 生きることへの恋を書き上げた舞台は成功し、ツバサはミナトセイイチロウの後を継ぐことを決意します。 そこにミカコから真相を告げる手紙が届いたのでした。 「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」
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愛とは何か? 結婚とは何か? を追求した純文学小説です。 主人公ツバサは劇団の役者です。恋人のアスカはツバサのもとを去っていきます。 「離れたくない。離れたくない。何もかもが消えて、叫びだけが残った。  離れたくない。その叫びだけが残った。  全身が叫びそのものになる。おれは叫びだ」 劇団の主宰者であるキリヤに呼び出されて、離婚話を聞かされます。不倫の子として父を知らずに育ったツバサは、キリヤの妻マリアの不倫の話しに、自分の生い立ちを重ねます。 「どんな喜びも苦難も、どんなに緻密に予測、計算しても思いもかけない事態へと流れていく。喜びも未知、苦しみも未知、でも冒険に向かう同行者がワクワクしてくれたら、おれも楽しく足どりも軽くなるけれど、未知なる苦難、苦境のことばかり思案して不安がり警戒されてしまったら、なんだかおれまでその冒険に向かうよろこびや楽しさを見失ってしまいそうになる……冒険でなければ博打といってもいい。愛は博打だ。人生も」 ツバサの母は心を病んで自殺してしまっていました。 「私にとって愛とは、一緒に歩んでいってほしいという欲があるかないか」 ツバサはミカコから思いを寄せられます。しかし「結婚が誰を幸せにしただろうか?」とツバサは感じています。 「不倫って感情を使いまわしができるから。こっちで足りないものをあっちで、あっちで満たされないものをこっちで補うというカラクリだから、判断が狂うんだよね。それが不倫マジックのタネあかし」 「愛する人とともに歩んでいくことでひろがっていく自分の中の可能性って、決してひとりでは辿りつけない境地だと思うの。守る人がいるうれしさ、守られている安心感、自信。妥協することの意味、共同生活のぶつかり合い、でも逆にそれを楽しもうという姿勢、つかず離れずに……それを一つ屋根の下で行う楽しさ。全く違う人間同士が一緒に人生を作っていく面白味。束縛し合わないで時間を共有したい……けれどこうしたことも相手が同じように思っていないと実現できない」 尊敬する作家、ミナトセイイチロウの影響を受けてツバサは劇団で上演する脚本を書きあげましたが、芝居は失敗してしまいました。 引退するキリヤから一人の友人を紹介されます。なんとその友人はミナトでした。 そこにアスカが妊娠したという情報が伝わってきました。 それは誰の子なのでしょうか? 真実は藪の中。証言が食い違います。誰かが嘘をついているはずです。認識しているツバサ自信が狂っていなければ、の話しですが……。 「妻のことが信頼できない。そうなったら『事実』は関係ないんだ」 そう言ったキリヤの言葉を思い出し、ツバサは真実は何かではなく、自分が何を信じるのか、を選びます。 アスカのお腹の中の子は、昔の自分だと感じていました。 死に際のミナトからツバサは病院に呼び出されます。そして途中までしか書いていない最後の原稿を託されます。ミナトの最後の小説を舞台上にアレンジしたものをツバサは上演します。客席にはミナトが、アスカが、ミカコが見てくれていました。 生きることへの恋を書き上げた舞台は成功し、ツバサはミナトセイイチロウの後を継ぐことを決意します。 そこにミカコから真相を告げる手紙が届いたのでした。 「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」
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このブログの著者の小説『片翼の翼』
小説『片翼の翼』
なぜ生きるのか? 何のために生きるのか? を追求した純文学小説です。 主人公ツバサは劇団の役者です。 「演技のメソッドとして、自分の過去の類似感情を呼び覚まして芝居に再現させるという方法がある。たとえば飼い犬が死んだときのことを思い出しながら、祖母が死んだときの芝居をしたりするのだ。自分が実生活で泣いたり怒ったりしたことを思いだして演技をする、そうすると迫真の演技となり観客の共感を得ることができる。ところが呼び覚ましたリアルな感情が濃密であればあるほど、心が当時の錯乱した思いに掻き乱されてしまう。その当時の感覚に今の現実がかき乱されてしまうことがあるのだ」 恋人のアスカと結婚式を挙げたのは、結婚式場のモデルのアルバイトとしてでした。しかし母の祐希とは違った結婚生活が自分には送れるのではないかという希望がツバサの胸に躍ります。 「ハッピーな人はもっと更にどんどんハッピーになっていってるというのに、どうして決断をしないんだろう。そんなにボンヤリできるほど人生は長くはないはずなのに。たくさん愛しあって、たくさん楽しんで、たくさんわかちあって、たくさん感動して、たくさん自分を謳歌して、たくさん自分を向上させなきゃならないのに。ハッピーな人達はそういうことを、同じ時間の中でどんどん積み重ねていっているのに、なんでわざわざ大切な時間を暗いもので覆うかな」 アスカに恋をしているのは確かでしたが、すべてを受け入れることができません。 かつてアスカは不倫の恋をしていて、その体験が今の自分をつくったと感じています。それに対してツバサの母は不倫の恋の果てに、みずから命を絶ってしまったのです。 「そのときは望んでいないことが起きて思うようにいかずとても悲しんでいても、大きな流れの中では、それはそうなるべきことがらであって、結果的にはよい方向への布石だったりすることがある。そのとき自分が必死にその結果に反するものを望んでも、事態に否決されて、どんどん大きな力に自分が流されているなあと感じるときがあるんだ」 ツバサは幼いころから愛読していたミナトセイイチロウの作品の影響で、独特のロマンの世界をもっていました。そのロマンのゆえに劇団の主宰者キリヤに認められ、芝居の脚本をまかされることになります。自分に人を感動させることができる何かがあるのか、ツバサは思い悩みます。 同時に友人のミカコと一緒に、インターネット・サイバーショップを立ち上げます。ブツを売るのではなくロマンを売るというコンセプトです。 「楽しい、うれしい、といった人間の明るい感情を掘り起こして、その「先」に到達させてあげるんだ。その到達を手伝う仕事なんだよ。やりがいのあることじゃないか」 惚れているけれど、受け入れられないアスカ。素直になれるけれど、惚れていないミカコ。三角関係にツバサはどう決着をつけるのでしょうか。 アスカは劇団をやめて、精神科医になろうと勉強をしていました。心療内科の手法をツバサとの関係にも持ち込んで、すべてのトラウマを話して、ちゃんと向き合ってくれと希望してきます。 自分の不倫は人生を決めた圧倒的な出来事だと認識しているのに、ツバサの母の不倫、自殺については、分類・整理して心療内科の一症例として片付けようとするアスカの態度にツバサは苛立ちます。つねに自分を無力と感じさせられるつきあいでした。 人と人との相性について、ツバサは考えつづけます。 ミナトから最後の作品の続きを書くように頼まれて、ツバサは地獄のような断崖絶壁の山に向かいます。 「舞台は変えよう。ミナトの小説からは魂だけを引き継ぎ、おれの故郷を舞台に独自の世界を描こう。自分の原風景を描いてみよう。目をそむけ続けてきた始まりの物語のことを。その原風景からしか、おれの本当の心の叫びは表現できない」 そこでミナトの作品がツバサの母と自分の故郷のことを書いていると悟り、自分のすべてを込めて作品を引きついて書き上げようとするのでした。 「おまえにその跡を引き継ぐ資格があるのか? 「ある」自分の中にその力があることをはっきりと感じていた。それはおれがあの人の息子だからだ。おれにはおれだけの何かを込めることができる。父の遺産のその上に」 ※※本作は小説『結婚』の前編、バックストーリーに相当するものです。両方お読みいただけますとさらに物語が深まる構成になっています。※※
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小説『片翼の翼』
なぜ生きるのか? 何のために生きるのか? を追求した純文学小説です。 主人公ツバサは劇団の役者です。 「演技のメソッドとして、自分の過去の類似感情を呼び覚まして芝居に再現させるという方法がある。たとえば飼い犬が死んだときのことを思い出しながら、祖母が死んだときの芝居をしたりするのだ。自分が実生活で泣いたり怒ったりしたことを思いだして演技をする、そうすると迫真の演技となり観客の共感を得ることができる。ところが呼び覚ましたリアルな感情が濃密であればあるほど、心が当時の錯乱した思いに掻き乱されてしまう。その当時の感覚に今の現実がかき乱されてしまうことがあるのだ」 恋人のアスカと結婚式を挙げたのは、結婚式場のモデルのアルバイトとしてでした。しかし母の祐希とは違った結婚生活が自分には送れるのではないかという希望がツバサの胸に躍ります。 「ハッピーな人はもっと更にどんどんハッピーになっていってるというのに、どうして決断をしないんだろう。そんなにボンヤリできるほど人生は長くはないはずなのに。たくさん愛しあって、たくさん楽しんで、たくさんわかちあって、たくさん感動して、たくさん自分を謳歌して、たくさん自分を向上させなきゃならないのに。ハッピーな人達はそういうことを、同じ時間の中でどんどん積み重ねていっているのに、なんでわざわざ大切な時間を暗いもので覆うかな」 アスカに恋をしているのは確かでしたが、すべてを受け入れることができません。 かつてアスカは不倫の恋をしていて、その体験が今の自分をつくったと感じています。それに対してツバサの母は不倫の恋の果てに、みずから命を絶ってしまったのです。 「そのときは望んでいないことが起きて思うようにいかずとても悲しんでいても、大きな流れの中では、それはそうなるべきことがらであって、結果的にはよい方向への布石だったりすることがある。そのとき自分が必死にその結果に反するものを望んでも、事態に否決されて、どんどん大きな力に自分が流されているなあと感じるときがあるんだ」 ツバサは幼いころから愛読していたミナトセイイチロウの作品の影響で、独特のロマンの世界をもっていました。そのロマンのゆえに劇団の主宰者キリヤに認められ、芝居の脚本をまかされることになります。自分に人を感動させることができる何かがあるのか、ツバサは思い悩みます。 同時に友人のミカコと一緒に、インターネット・サイバーショップを立ち上げます。ブツを売るのではなくロマンを売るというコンセプトです。 「楽しい、うれしい、といった人間の明るい感情を掘り起こして、その「先」に到達させてあげるんだ。その到達を手伝う仕事なんだよ。やりがいのあることじゃないか」 惚れているけれど、受け入れられないアスカ。素直になれるけれど、惚れていないミカコ。三角関係にツバサはどう決着をつけるのでしょうか。 アスカは劇団をやめて、精神科医になろうと勉強をしていました。心療内科の手法をツバサとの関係にも持ち込んで、すべてのトラウマを話して、ちゃんと向き合ってくれと希望してきます。 自分の不倫は人生を決めた圧倒的な出来事だと認識しているのに、ツバサの母の不倫、自殺については、分類・整理して心療内科の一症例として片付けようとするアスカの態度にツバサは苛立ちます。つねに自分を無力と感じさせられるつきあいでした。 人と人との相性について、ツバサは考えつづけます。 ミナトから最後の作品の続きを書くように頼まれて、ツバサは地獄のような断崖絶壁の山に向かいます。 「舞台は変えよう。ミナトの小説からは魂だけを引き継ぎ、おれの故郷を舞台に独自の世界を描こう。自分の原風景を描いてみよう。目をそむけ続けてきた始まりの物語のことを。その原風景からしか、おれの本当の心の叫びは表現できない」 そこでミナトの作品がツバサの母と自分の故郷のことを書いていると悟り、自分のすべてを込めて作品を引きついて書き上げようとするのでした。 「おまえにその跡を引き継ぐ資格があるのか? 「ある」自分の中にその力があることをはっきりと感じていた。それはおれがあの人の息子だからだ。おれにはおれだけの何かを込めることができる。父の遺産のその上に」 ※※本作は小説『結婚』の前編、バックストーリーに相当するものです。両方お読みいただけますとさらに物語が深まる構成になっています。※※
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【この記事を書いている人】

アリクラハルトと申します。【トウガラシ実存主義】【遊民ユーミン主義】の提唱者。ランニング系・登山系の雑誌に記事を書いてきたプロのライターでもあります。早稲田大学卒業。日本脚本家連盟修了生。その筆力は…本コラムを最後までお読みいただければわかります。あなたの心をどれだけ揺さぶることができたか。それがわたしの実力です。
市民ランナーのグランドスラムの達成者(マラソン・サブスリー。100kmサブ10。富士登山競争登頂)。ちばアクアラインマラソン招待選手。ボストンマラソン正式選手。地方大会での入賞多数。海外マラソンも完走多数(ボストン、ニューヨークシティ、バンクーバー、ユングフラウ、ロトルアニュージーランド、ニューカレドニアヌメア、ホノルル)。地元走友会のリーダー。月間走行距離MAX600km。『市民ランナーという生き方(グランドスラム養成講座)』を展開しています。言葉の力で、あなたの走り方を劇的に変えてみせます。
また、現在、バーチャルランニング『地球一周走り旅』を展開中。ご近所を走りながら、走行距離だけは地球を一周しようという仮想ランニング企画です。
そしてロードバイク乗り。朝飯前でウサイン・ボルトよりも速く走れます。山ヤとしての実績は以下のとおり。スイス・ブライトホルン登頂。マレーシア・キナバル山登頂。台湾・玉山(ニイタカヤマ)登頂。南アルプス全山縦走。後立山連峰全山縦走。槍・穂・西穂縦走。富士登山競争完走。日本山岳耐久レース(ハセツネ)完走。などなど。『山と渓谷』ピープル・オブ・ザ・イヤー選出歴あり。
その後、山ヤのスタイルのまま海外バックパック放浪に旅立ちました。訪問国はモロッコ。エジプト。ヨルダン。トルコ。イギリス。フランス。スペイン。ポルトガル。イタリア。バチカン。ギリシア。スイス。アメリカ。メキシコ。カナダ。タイ。ベトナム。カンボジア。マレーシア。シンガポール。インドネシア。ニュージーランド。ネパール。インド。中国。台湾。韓国。そして日本の28ケ国。パリとニューカレドニア、ホノルルとラスベガスを別に数えていいなら訪問都市は100都市をこえています。(大西洋上をのぞいて)世界一周しています。国内では青春18きっぷ・車中泊で日本一周しています。
登山も、海外バックパック旅行も、車中泊も、すべてに共通するのは必要最低限の装備で生き抜こうという心構えだと思っています。バックパックひとつ。その放浪の魂を伝えていきます。千葉県在住。

【この記事を書いている人】
瞑想ランニング(地球二周目)をしながら心に浮かんできたコラムをブログに書き綴っているランナー・ブロガーのアリクラハルトと申します。【トウガラシ実存主義】【遊民ユーミン主義】の提唱者。ランニング系・登山系の雑誌に記事を書いてきたプロのライターでもあります。早稲田大学卒業。日本脚本家連盟修了生。その筆力は…本コラムを最後までお読みいただければわかります。あなたの心をどれだけ揺さぶることができたか。それがわたしの実力です。 市民ランナーのグランドスラムの達成者(マラソン・サブスリー。100kmサブ10。富士登山競争登頂)。ちばアクアラインマラソン招待選手。ボストンマラソン正式選手。地方大会での入賞多数。海外マラソンも完走多数(ボストン、ニューヨークシティ、バンクーバー、ユングフラウ、ロトルアニュージーランド、ニューカレドニアヌメア、ホノルル)。地元走友会のリーダー。月間走行距離MAX600km。『市民ランナーという生き方(グランドスラム養成講座)』を展開しています。言葉の力で、あなたの走り方を劇的に変えてみせます。 また、現在、バーチャルランニング『地球一周走り旅』を展開中。ご近所を走りながら、走行距離だけは地球を一周しようという仮想ランニング企画です。 そしてロードバイク乗り。朝飯前でウサイン・ボルトよりも速く走れます。山ヤとしての実績は以下のとおり。スイス・ブライトホルン登頂。マレーシア・キナバル山登頂。台湾・玉山(ニイタカヤマ)登頂。南アルプス全山縦走。後立山連峰全山縦走。槍・穂・西穂縦走。富士登山競争完走。日本山岳耐久レース(ハセツネ)完走。などなど。『山と渓谷』ピープル・オブ・ザ・イヤー選出歴あり。 その後、山ヤのスタイルのまま海外バックパック放浪に旅立ちました。訪問国はモロッコ。エジプト。ヨルダン。トルコ。イギリス。フランス。スペイン。ポルトガル。イタリア。バチカン。ギリシア。スイス。アメリカ。メキシコ。カナダ。タイ。ベトナム。カンボジア。マレーシア。シンガポール。インドネシア。ニュージーランド。ネパール。インド。中国。台湾。韓国。そして日本の28ケ国。パリとニューカレドニア、ホノルルとラスベガスを別に数えていいなら訪問都市は100都市をこえています。(大西洋上をのぞいて)世界一周しています。国内では青春18きっぷ・車中泊で日本一周しています。 登山も、海外バックパック旅行も、車中泊も、すべてに共通するのは必要最低限の装備で生き抜こうという心構えだと思っています。バックパックひとつ。その放浪の魂を伝えていきます。千葉県在住。
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