どうもハルトです。みなさん今日も楽しい旅を続けていますか?
ビーチボーイより日焼けしているタンボマン
私たち旅人にとって5月のゴールデンウィークは旅行のピークシーズンですが、田んぼ関係者にとってのゴールデンウィークは「田植え」のまっさかりです。農繁期というやつです。
タヒチやセブ島みたいなビーチリゾートから真っ黒けになって帰国したら、実家の田んぼを手伝っていたという会社の同僚が自分よりはるかに真っ黒けっけでビックリしたことはないでしょうか?
「日に焼けるのは暑い夏」というイメージをみなさんお持ちでしょうが、実際にはゴールデンウィークの田んぼというのは、水面からの照り返しもありますから、おそろしく日焼けするのです。ビーチボーイもハダシ。バリニーズもびっくりのこんがり日焼け男。それがニッポンのタンボマン(田圃男)なのです。
ちょうど田植えを体験させてくれるというイベントがあったので参加してきました。
田植え体験とは
田植え体験というのは、無農薬の田んぼを、昔ながらのやり方で田植えをしてみようという体験になります。
田んぼ農家の方はずっと付きっきりで稲のお世話をしてくれるのですが、外来の体験者は「田植え」「草刈り」「収穫」という大きな三大イベントだけを厳選して体験できることになっています。
基本的には、私たち日本人の主食である「お米」がどのようにしてできているのか。
それを体験することで「何か」を感じてもらいたいという子供の教育的な要素をたくさん含んだイベントなのですが、大人でも十分に楽しむことができます。
私のようなランナーは常々「ビールはガソリン。走るエネルギー」と公言していますが、実際には「お米」こそが走る魂の源です。
持久走に興味があったら「栄養学」とりわけ「お米」や「小麦」に興味を持たないわけにはいきません。このようにして「アスリート」は「学者」になっていくのです。
最近では、農業で収入を得ながらプレーする実業団もあると聞きます。それならば本社の業績次第で部が廃部になったりしないで、自助努力でスポーツを続けられるのではないでしょうか。
さて、田植え体験ですが、一度教えてもらえば、難しいことはありませんでした。
農家の方が育苗箱で育てた小さな「苗」が、田んぼの畔に塊で置いてあります。
それをひとつまみづつ引きちぎって、水田に手で植えていくという作業が「田植え」です。
植えるといっても、水田です。地面はトロトロになっていますので、トロトロ層の下にぺちょっと押し込むという感じでした。
水田では田んぼ用の長靴を履きます。足にぴったりとした黒ゴム靴です。履き口のところは水が浸入しないようにぴったりと伸縮ゴムで密封されています。普段使用するような履き口がブカブカの長靴では、場所によっては泥に長靴を取られて足だけがすぽりと抜けてしまうのです。
実際に脚力の弱い子供が泥に足を取られて動けなくなってしまったのを何度も見かけました。親が抱き上げるようにして泥土から助けてあげていました。頼りになるお父さんを演じることができて、田植え体験は親子のコミュニケーションにも効果があるようです。
あまりにも泥に足がつかってしまうような柔らかい場所では、ちぎった苗を放りなげても大丈夫だそうです。根元の方が重たいので放物線上に投げると落下傘部隊のように根元から着水します。つまりしっかりトロトロ層に埋めなくても、乗っけるだけでも大丈夫なのですね。
つまり、小さな子供でも田植え体験はできるということです。
田植えに飽きたら、子供は虫取り
床下浸水の災害でもないかぎり、水の中を長靴でジャバジャバ進むというのは、滅多にできない体験です。大人のどろんこ遊びのようなものです。
何かの本で読んだエピソードですが、老齢の父親が田んぼにこだわるのを見て、サラリーマンの息子が、
「農家収入なんて大したことないんだから、やめちゃえよ。おれが養ってやるから」
と申し出たそうです。するとお爺ちゃんは、
「土いじりは娯楽だ。楽しくてやってんだ。余計なこと言うな」
と、息子を叱ったのだそうです。なるほど、と思わせるところがあるエピソードだと思います。
遊びなんだけど、遊びに見えない。立派に働いているように見えます。
昔は五公五民(50%)ぐらいで税として収穫した米を持っていかれて、家族の食い扶持がすべて収穫に掛かっていて、重労働だったんでしょうから。
いつでもやめられるのなら遊びですが、きっちり成果を出さなければならないとなると労働です。
隣の田んぼで稼働していた田植え機の凄さがよくわかります。まっすぐに、短時間で、効率的に苗をジャンジャン植えていきます。
「買うと高く、元が取れそうな頃に壊れる」と言われる田んぼ重機ですが、この機会があるから農家の人数が減ってもなんとかなっているのだなあ、と感じました。
昔は農家総出で大人数で片っ端から田植えしたのでしょう。映画『のぼうの城』や『超高速! 参勤交代リターンズ』などに「田植え歌」が出てきます。
みんなが「田植え」を「娯楽」「お祭り」「イベント」と感じて楽しんでやってくれたら、ありがたいことですよね。昔から日本人はそうやって工夫してきたのです。
その名残でしょうか。日本全国、いろいろなところで「田植え体験」をすることができますが、ほとんどの場所では「イベント」として楽しんでもらおうという趣旨になっています。
せいぜい「教育」であり、「労働」としての「田植え体験」というのはまずありません。
都市で暮らしているとそういうことさえ見えてきません。田植え体験はそういうことを感じさせてくれる貴重な体験だと思います。
田植えに熱中するのはどちらかというと都会生活に疲れた大人の方で、子供はすぐに飽きてしまいます。
しかし飽きたら、チョウやカエルやオタマジャクシや昆虫たちがたくさんいます。虫取り網を持っていけば、子供たちも最後まで飽きることはないでしょう。
大人は何を学ぶのか?
石が水に浮かんでいるとします。さて、驚くのは大人でしょうか。それとも子供でしょうか?
もちろん答えは大人です。子供は驚きません。子供には「石は水に浮かない」という常識がないからです。
大人はビックリします。「石は水に浮かない」ことを知っていますからね。
田植えに、子供がはやばやと飽きてしまう理由の一つに「日本人にとってのお米の重要性」がわかっていないということも要素のひとつとしてあると思います。ことの重大さがわかっていないから、執着しないというわけです。
その点、大人は「お米」の重要性はよく知っています。江戸時代にはサムライのお給料はお米で支払われていたのです。
さて、ことの重大さがわかっている大人は、田植えにどんなことを学べばいいのでしょうか。
ここでは大人の代表である私が何を感じたのか、どんなことを学んだのかを記して稿を閉じます。
どうして稲は根腐れしないのか?
最初に私が感じたのは「何で稲って根腐れしないんだろう?」ということでした。
大人の常識から言うと、草木というのは水をあげ過ぎるのはよくないはずです。根腐れと言って、根が酸素不足のため腐ってしまうからです。
ところが田んぼの稲は水に漬かっています。水のあげすぎなんてもんじゃありません。他の植物と何が違うのでしょうか。
物知りのダイに聞いてみました。
ダイ「稲は葉から吸収した酸素を根っこまで運ぶ組織が根腐れするようなほかの植物とくらべてすごく発達しているから大丈夫なんだ」
ハルト「ふう~ん。なるほど。水が張ってあっても大丈夫だということはわかった。でもなんでわざわざ水を張るんだ? 逆に水がなくちゃダメなのか?」
ダイ「陸稲と言って畑で作る米もあるよ。田んぼの稲は水稲と言うんだ。日本では水稲の方がメリットが大きいから盛んになっているんだよ。日本は水が豊かだからね」
ハルト「どんなメリットがあるの?」
ダイ「水稲は雑草が発生しにくいというメリットがあるんだ。ハルトが危惧したようにほとんどの草木は水の中では生育できないから生存競争のライバルを排除することができるんだ。これは農家目線で言うと雑草取りの手間が省けるってことだよ」
ハルト「なるほど。他には?」
ダイ「雨水しか降らない畑の水稲に比べたら、川の水を直接引き込む水稲は栄養豊かなんだ。これは農家目線で言うと肥料代がかからないってことだよ」
ハルト「エジプトはナイルの賜物、みたいな話だね」
百聞は一見に如かずと言います。日本各地でいろいろなイベント型「田植え体験」を主催している人がいますから、このブログを読んで「おもしろそう」と思った方は、ぜひ体験してみてはいかがでしょうか。